166 / 332
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい88
「でしたら私が死ぬ前に愛した男の魂を、ここに連れて来てください。先輩お得意の裏工作を使って蘇らせてくれたら、この美貌を使って、その魂を持った人間を必ず堕とします。間違いなく、天珠を全うできるはずですので」
「裏工作って、そんなもの得意じゃないし」
なぜだか慌てた表情になった黒ずくめの男に、ベニーは追い討ちをかけるように語りかける。
「なにを言ってるのやら。伯爵暗殺のために、敵対勢力をそそのかしたり、子爵夫人に入れ知恵をしていたじゃないですか。彼女、妊娠なんてしていなかったでしょう?」
リズミカルに銛の柄を地面に突っつきながら、さらりと言ってのけたベニーの顔を、穴が開くほど凝視する。
「ベニーちゃん、言いがかりはやめてくれよ。そんな証拠がないだろう」
「ええ。今現在は証拠がない以上、立件できないのも事実ですが、貴方がアクセスした人物に顔写真つきで聞き込みをしたら、間違いなく成果をあげられると思うんです。なんなら調べあげた後に、その証拠を突きつけましょうか――」
おどろおどろしく赤く光らせたベニーの瞳を見て、黒ずくめの男は「ヒッ」と小さな声をあげた。
「私は……いえ僕はこれでも死ぬ前は、刑事だったんです。それなりにやり手のね」
「刑事? もしや刑事をしながら、汚い手を使って仕事をしていたから、やり手だったとか?」
たどたどしい言葉で問いかけた黒ずくめの男に、ベニーは独特な微笑を口角に浮かべる。相変わらず目が笑っていないせいで、底の見えない恐ろしさを感じさせる笑みに見えた。
「多少周りに迷惑をかけながらも、刑事としての仕事をきちんと果たしてました。ちなみに前世のカルマの酷さが、ここでアダになってる理由ですが、先輩が驚くようなことを、刑事になる前にしていたからです」
「ということは、成人する前に――」
「気に入ったヤツを何人も、無理やり犯したり」
「ゲッ!」
黒ずくめの男の顔色が、どんどん悪いものへと変化した。
「ここでいうところの、マフィアの息子と駆け落ちしたりと、それなりに波乱万丈な人生を過ごしました」
「ベニーちゃんが捕獲した、伯爵と大差がないことをしていたから、現世で生まれた途端に捨てられたり、幸せになりかけたと思ったら、男娼の館に売られたりしていたということか。納得……」
銛に突き刺さったままの獲物をしげしげと眺めつつ、黒ずくめの男は淡々と語った。
ともだちにシェアしよう!