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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい90

「バカにするな、俺だけじゃない。他にも、同じようなヤツがいるんだって」 「人の機微が読めないせいで、まともな恋愛ができず、他力本願とはお可哀想に」  ひょいと肩を竦めながら同情するような表情を見せられたことに、カチンときた黒ずくめの男は、ベニーに睨みを利かせた。 「ベニーちゃんにだけは、慰められたくない!」 「そういうところですよ。本来なら愛する人を目の前で失った、僕を慰めてほしいというのに」 「あ……。悪かった」  今頃そのことに気づいた黒ずくめの男は、バツの悪い顔をする。それを見て、ベニーはお腹を抱えて笑いだした。  どんよりした空模様に似つかわしくない態度を目の当たりにして、黒ずくめの男は仕方なさそうに声をかける。 「本当に悪かったって。ベニーちゃんに泣かれると、どうしていいのかわからない」 「笑いすぎたせいで、涙が滲んでるだけですよ」 「おまえのことを、赤ん坊のときから見ているんだ。わかってるに決まってるだろ。泣くのが恥だと思って、さっきからわざと笑ってるくせに!」  ベニーは指摘された涙を拭って、何度か頭を振る。切なげな彩りを飾るまなざしを、しっかりと黒ずくめの男に向けた。 「恥とは思ってません。空虚になった胸の穴の大きさに対処できなくて、こうして笑ってでもいないと、何もかもがその穴に吸い込まれそうなんです」 「とっとと、新しい恋を探すんだな。そうすればその穴も、自動的に埋まるって」 「嫌です」 「即答かよ! 相手は死んじまったんだぞ、絶対に無理だ」  スパッと言い放たれたベニーのセリフに衝撃を受けたのか、黒ずくめの男は唖然としながら返事をした。 「でしたら僕も死んで、あの世に行きます」 「うわぁ、最悪のパターンだろ。俺の見守り人の成績に、汚点をつける気か?」  黒ずくめの男は頭を抱えながら、しゃがみこんだ。 「成績なんていうものがあるんですね。それは大変……」  他にもわーわー騒ぎ立てる文句を聞きながら、ベニーは考えにふけった。これまでの流れを考慮しつつ、自分が優位になる話の道筋を、パズルのように頭の中で並べる。 「ベニーちゃんそれがわかったのなら、俺のために普通に恋愛して、一生を過ごしてくれ」 「僕に普通の恋愛を促したいのでしたら、簡単なことでそれが可能になります」

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