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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい93
黒ずくめの男からの問いかけに、むっつりと黙り込んだベニー。今後の方針は決まっているものの、職について考える余裕がまったくなかった。自分の秘めた願いを叶えるプロセスを考慮することだけに、神経を集中する。
「先輩に、さきほど言ったじゃないですか。僕の願いを――」
「え~、あれマジだったのか。俺を巻き込んでまで叶えさせたいとかベニーちゃん、図々しいにもほどがある!」
「図々しくもなりますよ。だって僕のこの命は、たったひとつしかないのですから」
疑惑つきの出生のせいで、周囲からは奇異の目で見られていたローランド。表面上は怖気づいていたが、内に秘めた熱い心――男爵としての地位を守るために、プライドを持って、難しい仕事に取り組んでいたのを知っているからこそ、惹かれずにはいられなかった。
ベニーが幼い頃に憧れた人の血を受け継ぐ印になる朱い髪と、宝石のようなのエメラルドグリーンの大きな瞳は、吸い込まれてしまいそうになるくらいに、魅せられるものだったが――。
「ローランド様が次に転生なさる人物は、どのようなお方なんでしょうね」
「俺はまだ、おまえの願いを叶える片棒を担ぐなんて、ひとことも言ってないぞ!」
「先輩が裏工作に奔走しなければ、ローランド様の寿命はまだ伸びていたはずなのです。僕の言いたいことは、当然おわかりですね?」
「く~~~っ、俺が断ったら、どうするつもりなんだよ?」
ベニーの両目が、糸のように細められる。
「先輩が断れないように、とことん追い詰めてさしあげるだけのこと」
「ベニーちゃん、たとえばそんなことをしてさ、上の人に怒られちゃったりしたら、どうするんだよ?」
車の天井を指さして指摘したセリフに、ベニーは小首を傾げた。
「僕のような人間を蘇らせた時点で、まともな生き方をしないことくらい、上の偉い人は想定内だと思います」
ハンドルを両手に握りしめながら、肩をひょいと上げてみせる。
「なんだよ、それ。わかってて、おまえを生き返させたっていうのか」
唇を尖らせてぶーぶー文句を言う姿を、ルームミラーで確認した。
交渉を決裂させないために、これ以上機嫌を損ねるのはナンセンスだと即座に判断し、さっさと話題を切り替える。
「先輩が自分のために、裏工作することもわかっていたのでしょうね。ちなみに見守り人をするにあたり、どうして僕を選んだのでしょう?」
「適当だ。この中にいるヤツから好きなの一人選べって言われて、赤ん坊の顔写真付きの分厚いファイルを、何十冊も見せられた」
至極つまらなそうに、車窓を眺めながら告げられた言葉を聞き、ベニーは「なるほど」と短く呟いて、相槌を打った。
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