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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい6

 黒ずくめの男は、選ばれし人間の見守り人としての仕事のひとつ、近況報告をするために、何度も天界に足を運んでいた。そこであらゆる情報を集めながらローランドの転移先を探ったところ、生まれ変わりの躰が特別仕様なことを知った。  それ以外にも他の情報を得ながら、ベニーと一緒にあちこちに転移して彼を捜し、結果的に現代の日本へ辿りついた。 「私も天界に行くことができたら、ローランド様の生まれ変わった場所を、もっと早く把握できたでしょうに。先輩ひとりに情報収集をまかせたお蔭で、20年近く経ってしまいました」 「しょうがないだろ。隠密行動しながら、情報探っていたんだしさ。それに、20年も経ってない。俺としては、瞬き一回分くらいの時間にしか感じないね」 (300年生きた先輩なら、そんなふうに感じるのは当然のことかもしれませんが、私は違う。永遠に逢えないかと思ったくらいに、長いものに感じた……) 「先輩に言いたいことは、それだけでは済みません。どうして私よりも先に、明堂くんに逢ったんです?」  ギロリと睨みながら語気を強めるベニーに、黒ずくめの男は思いっきりたじろいだ。 「そんなこと言われてもなぁ。たまたまっていうか、偶然そこを通りかかっただけだって」 「偶然とは運命。つまりこのまま明堂くんが先輩に一目惚れでもして、恋に堕ちていたとしたら、どう責任をとってくれるのでしょうか?」  低く唸るような声色を聞いて、目の前にある顔がみるみるうちにこわばる。唇の端を神経質にピクピクさせる様子は、困惑している感じではなく、呆れ果てているものに近かった。 「うわ……。ベニーちゃんってば、すっげぇめんどうくさいことを言い出した」 「見守り人が、選ばれし人間の恋の相手を愛してしまったという事象は、実際のところあるのでしょうか?」 「そんなモン知らねぇし、ガキにはまったく興味がない。というか男を愛せないから、安心してくれ」  両手のてのひらを見せながら、宥めるようなジェスチャー付きで口を開いたのに対し、ベニーはさらに目尻を吊り上げる。 「先輩にその気がなくても、明堂くんが先輩を好きになっていたら、私はどうすればいいのでしょうか」 「絶対に大丈夫だって。俺みたいなぺらっぺらの中身のない男が、愛されるわけがないだろ。ベニーちゃんの美貌があれば、明堂くんは堕ちるに違いない!」  スラスラと問題を定義するベニーに、黒ずくめの男は説得力にかけることばかりを言い並べた。

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