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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい7
「好きな人が私以外を愛したことが、実際に二度もあった。二度あることは、三度あるっていうじゃないですか」
切実に語りかけるベニーの言葉を聞いて、黒ずくめの男は肩を竦めながら白目をむく。
「まったく。そんなことになったら、諦めさせればいいだけの話だって」
「相手は未成年の子どもです。純粋な気持ちで、先輩を愛するに違いありません。その純粋さゆえに、簡単に諦められないのです。ローランド様がそうでした」
自分も見聞きした過去の出来事を語られたせいで、次第に言葉を詰まらせる。
「……そ、そうだな。そこは経験の少ない子どもを夢中にさせるべく、ベニーちゃんの色仕掛けで、躰からはじまる関係を築けばよくない?」
「そんなことがまかり通るのなら、あちこち、カップルだらけになっているのではないですか?」
黒ずくめの男は勢いよく立ち上がり、頭を抱えてベニーに背中を向けた。
「あ~~~っ、本当にめんどくさい! こういうのを目の当たりにしてるから、俺は恋愛自体したくなくなっちまったんだぞ。誰も愛したくないっ!」
「静かにしてください。明堂くんが、起きてしまうでしょう!」
口元に人差し指を当てて静寂をうながすベニーの頭を、黒ずくめの男は振り返った勢いをそのままに殴りつける。苛立ちまかせに殴った拳は、思いのほかヒットした。
「痛っ! 暴力反対です!」
口ではそう言ったベニーだったが、椅子から立ち上がるなり、黒ずくめの男の胸ぐらを掴みあげた。同じくらいの身長ゆえに、至近距離で見つめ合う。
「怒った顔も、なかなかの男前じゃねぇか。その迫力を使って、強引に迫ればいいと思うけどな」
「冷やかしは結構です。ふざけるのもいい加減に」
「あ、ぁあのっ、すみませんでしたっ! ベッドお使いにになりますか?」
ふたりの会話に突如割り込んだ声が、衝立の向こう側からした。ベニーは眉根を寄せたまま、掴みかかっていた手を放り出すように外し、静かに歩いて空間を遮っていた衝立を退ける。
そこには申し訳なさそうに立ち竦んだ、明堂の姿があった。
「どこら辺から話を聞いていたのですか?」
「ロレザス先生が、静かにしてくださいと言った辺りからです……」
「うるさくしてすみませんでした。けが人の君に気を遣わせるなんて、保健医として最低ですね」
しゅんとした返答に明堂は慌てふためいて、意味なく両手をばたばたさせた。
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