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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい9

「大人の色気がダダ漏れしてるベニーちゃんが照れたことにより、また違った顔を明堂くんは見たことになる。そのあどけない表情と出逢ったときとの違いに、胸がキュンキュンしちゃったんだと思うんだな」  どこか偉そうに説明したことについて、ベニーはつまらないと言わんばかりに顔をしかめた。 「キュンキュンしてるのは、私のほうですよ。ローランド様とはまた違った魅力があって、ドキドキが止まりません」 「未成年の同性にときめく神経が、俺にはさっぱりわからん」 「ちなみに先輩の理想の相手は、どのような方なんですか?」  軽快なやり取りのあとにベニーが訊ねると、黒ずくめの男はきまり悪そうにまぶたを伏せた。 「俺の理想の相手を知って、どうするんだ?」  さきほどまでとまったく違う面持ちに、ベニーは注意深く凝視する。下手な発言をして機嫌を損ねるのは得策じゃないと考え、当たり障りのないことを口にした。 「300年以上独り身でいる先輩の理想は、さぞかし高いんだろうなと思ったので」 「一緒にいて、安らぎを与えてくれる相手。なんて、普通すぎる理想だろう?」  ベニーとしては見た目や性格について、非の打ち所のない感じで答えると思っていたため驚き、目を大きく見開いて反論する。 「それこそ、理解に苦しむ回答ですね。好きな人が傍にいたらドキドキして、ちっとも安らぐことができません」  自殺する前と生まれ変わった現在、自分の感情はまったく変わらなかった。むしろ、強くなっているとすら思えた。好きな相手がいるだけで胸が弾み、心が勝手に躍らされる。それは不快感を伴うものではなく、幸せを感じることができた。  それと同時に相手が好きすぎて、壊してしまいたい衝動に駆られる――だがそれをしないように、自動的にロックがかかった。選ばれし人間がけして犯してはいけない掟は、自殺と自らの手で人を殺めることだった。 (自分の手を汚さなければ、人を殺めるのが可能だというのを、ローランド様の死をもってわかったことですが、これについて上からの沙汰がなくスルーされているのも、先輩と一緒に異世界に転移していることすら見逃されているのは、どういうことなんでしょうね……) 「なぁベニーちゃん」 「なんですか?」 「俺も明日から、英語教諭の補助員として働くんだからさ、先輩呼びはやめたほうがよくないか。これからはベニーって呼ぶし」

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