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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい13
「手間かけさせやがって!」
ベニーは強かに打った頭の痛みに眉根を寄せつつ、見えない相手に向かって微笑みながら話かけた。
「随分と演技が上手いんですね。すっかり騙されてしまいました」
「余裕ぶっこいてるんじゃねぇよ」
視界が開けたと思ったのも束の間、生徒は予め用意していた紐を使って、ベニーの両手首を素早く後ろ手に縛っていく。その慣れた手つきに思わず感心しながら、ゆったりとした口調で語りかけた。
「そうですね、実際の余裕は、あまりあるくらいです。むしろ君の背後に、満ち溢れている状態ですよ」
「背後だと?」
生徒が振り返った刹那、横から二の腕が音もなく現れ、大柄な躰を押し倒した。
「たまたま俺がいるからって、余裕ありすぎだろ」
ローランドは保健室のベッドでサボっていたときに、ケガをした生徒が入ってきたため、見守り人の力を使って透明化していた。
「無駄な労力を使わなくて済みました。バーンズ先生、ありがとうございます」
言いながら、頭を振って起き上がる。その間にローランドは手際よく生徒を羽交い締めして、抵抗できないように床にねじ伏せた。
「さきほど訊ねましたが、誰の差し金なんですか?」
冷ややかさを漂わす話し方で訊ねたベニーを、生徒は鋭い視線で睨みあげる。
「言えるわけないだろ!」
喚き散らすような返答を聞き、ローランドと顔を見合わせた。アイコンタクトをしてる最中も、押さえられた生徒はぎゃんぎゃん騒いで、ヒステリックに文句を言い続ける。
「痛いって言ってんだろ。おまえには何もしてないのによ、とっとと放せクソ外人!」
「クソ外人って言うけど、一応ここの先生なんだぞ。そんな口のきき方をしたら、ご両親が悲しむと思うな」
ローランドが諭しても、生徒は抵抗する腕の力を抜かなかった。その様子を傍らで窺いつつ、ベニーはあえて穏やかに話しかけた。
「ああ困りました。君が素直に教えてくれたら、この件はなかったことにしようと思ったのですが担任に報告して、処罰をあおぐことに――」
「本当に、なかったことにしてくれるのかよ?」
ベニーが言い終える前に、生徒が素早く反応を示した。
「だって君は操られたにすぎない、可哀想な生徒なんでしょう?」
その食いつきの良さを利用しようと、言葉をたたみかける。
「明堂会長に頼まれた。ロレザス先生の恥ずかしい写真を撮ってこいって」
「明堂会長? もしかして……」
瞬きしながらローランドの顔を見つめたら、理解したというように頷く。
「ああ、彼の兄だな」
「私は明堂くんのお兄さんに、一度も逢ったことはありません。写真を撮る理由を聞いていますか?」
「そんなの知らねぇよ。アンタが来てから、ヤりたいだの襲いたいだの言ってるヤツらが大勢いるから、ソイツらを手駒に使おうと、うまい餌を用意するためなんじゃないかと思う」
(男子校ならではの噂話なんでしょうが、自分がそのネタにされるのは嫌ですね。やれやれ、前世と同じ目に遭うとは……)
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