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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい14

「わぁお、ベニーってば人気者!」 「バーンズ先生、ちゃかさないでいただきたい。実際は胸くそ悪いことなんです。彼を解放してください」  ベニーのセリフに、ローランドは生徒の上から躰を退けて、わざわざ手を差しのべて立たせる。 「君が失敗したことを伝えるついでに、明堂会長に保健室に来るように言ってください。いつでも待っています」 「わかった。ちゃんと伝えるから、このこと誰にもチクるなよ!」  並んで立ち尽くすふたりに念押しした生徒は、脱兎のごとく保健室を出て行った。 「彼の兄が他人を使ってベニーを陥れることをするなんて、ただ事じゃない。いったい、なにがどうしたっていうんだろうな」 「私に聞かないでください。理由がさっぱりなんですから」  バツの悪いことなので、すぐには顔を出さないと予想していたのに、その日の放課後、明堂会長が保健室に顔を出すことを、例の生徒が知らせに来た。  仮に襲われても、ベニーとしては対処する自信はあったが、明堂会長がひとりで来るとは限らないと懸念したローランドが、見守り人の力を使って透明化し、傍に控えることになった。 「はじめまして、ベニー・ロレザス先生。俺は弘泰の兄の明堂伊月です」  襟足がきちんと切りそろえられた、癖のない艶やかな黒髪。細面に涼やかな一重まぶたが印象的に映る顔立ちの生徒だった。細身のすらっとした体形を覆う制服には一切の乱れはなく、生徒会長をしているだけあって、貫禄も充分あるように見受けられる。 「丁寧な挨拶をどうも、明堂会長」 「少し前に、弘泰がお世話になったそうですね。ありがとうございました」  妙に整った顔立ちを彩る、サラサラな黒髪を揺らして、深くお辞儀した姿を、注意深く観察した。 「わざわざそのことを言うためだけに、ここに来たのではないでしょう。わかっていますよね?」  不快感を示すように語気を強めたベニ―を見て、明堂は弱りきった表情を浮かべた。 「はい。俺の不用意なひとことを知人が誤解して、ロレザス先生を襲ってしまったようです」 「誤解をすることですか。それは、どんなことを言ったのでしょう?」  長い髪を揺らして小首を傾げるベニーに、顎を少しだけ引いて重たい口を開く。 「偶然渡り廊下で、ロレザス先生をお見かけしたんです。夕暮れの日を浴びた先生の後ろ姿がとても綺麗だったので、目を奪われてしまったことを言っただけだったのに……」  一重まぶたを伏せて告げられた言葉を聞き、複雑な心境に陥る。たったそれだけのことで自分が襲われたという事実を見出すために、ベニーはあらゆる可能性を考えた。

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