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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい22
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屋上から一階まで階段を駆け下りて、保健室に向かう。息を切らしながら、手にしていたメモ紙を目の前にかざした。青いペンで書かれた文字は薄っすら見えるものだったが、残念ながらそれが全然理解できなかった。
(長文の英語みたいに見えるんだけど、見覚えのある単語がまったくない。もしかして、他の国の言語なのかな?)
ヒラヒラさせて表裏を確認してみても、わかる単語はひとつもなかった。
そんなことをしているうちに、保健室前に到着する。ノックをしようと右手で拳を作り、叩きかける瞬間に引っ込める。明堂に言い知れぬ緊張が襲ったせいだった。
ローランドとは、また違う種類の華やかさを持つ教師。束ねた長い髪を揺らしながら微笑まれただけで、妙にドキマギした経緯がある。
(怖気づいてる場合じゃない。まずはこの間のお礼を言ってから、ローランド先生に託されたメモを渡すこと!)
頭の中でそれを何度もリピートしていると、目の前にある扉が音を立てて大きく開かれた。
「わっ!!」
そのことに驚き、数歩退いた明堂を見下ろす見覚えのある顔が、同じように驚いた表情をしながら口を開く。
「すりガラスから人影が見えたので、どうしたのかと思ったら。明堂くん、なにか用ですか?」
「明堂?」
ベニーの背後から聞いたことのない声がして、躰を竦ませながらそこに視線を合わせたら、青いネクタイをつけた2年生が椅子に座り、こちらを睨むように、キツいまなざしで見つめ返してきた。
「あぁああ、あのっ、その、ローランド先生に頼まれたものを持ってきたというか!」
しどろもどろに一気に喋ったあと、頬がぶわっと熱くなるのを感じた。上級生がいるこの場を早く離れたい気持ちがあるのに、自分に優しい笑みを見せる保健医と話をしたい気持ちがないまぜになり、明堂の落ち着きのなさをさらに助長させる。
(傍にいるだけで、いい匂いが伝ってくる。今日も髪が綺麗で素敵だな)
「バーンズ先生からの頼まれものですか?」
小首を傾げながら話しかけられたことにより我に返り、手にしているものをやっと差し出した。
「はいぃ、こ、これです」
「なになに。急いで書いたんでしょうけど、人に読ませるものなら、もう少し丁寧な文字を書くように心がけてほしいですね、まったく」
素早くメモ紙の文字を読みとったベニーは、白衣の胸ポケットにそれをしまい、明堂の頬に手を添える。頬に熱をもっているせいで、唐突に触れられたてのひらが、とても冷たく感じた。
「明堂くん、熱があるようですね」
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