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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい23

「やっ? えっ、違っ」 「じっとしていてください」  ベニーは頬に添えていた手を、顔のラインをなぞるように顎に移動させて、頭を上向かせた。そのまま顔を近づけながら瞳を閉じたのを目の当たりにして、明堂の心臓が止まりそうになる。  目をぎゅっと閉じて躰の全部を強ばらせると、額にコツンという衝撃が伝わった。恐るおそる目を開けたら、ボヤける視界に長いまつ毛を認識することができたのだが――。 (これって、僕がロレザス先生にキスしようと思えば、できちゃう距離じゃないか!?) 「やはり熱がありますね。他に具合の悪いところはありませんか?」  音もなく遠のく顔を名残惜しいと思いつつ、自身についての体調の悪いところを、なんとか考える。 「あ、あっ、頭がぼんやりする感じ、かも……」 「ぼんやりする感じ、熱の影響でしょうか」  ベニーは明堂を支えるように肩を抱き寄せて、保健室の中へと誘う。一気に縮まった距離に、足元がよろめいた。 「明堂くん、大丈夫ですか?」 「は、はいっ!」  おぼつかない足取りをしっかりしなければと、気合いを入れて歩こうとしたら、躰を支える腕がそれを阻止するように力が入り、さきほどよりもベニーに密着して歩かせた。 「少しベッドで、横になるといいです」 「い、いつもすみません……」 「あのっ、ロレザス先生!」  椅子に座っていた上級生が慌てて立ち上がってベニーに近づくなり、腕を掴んだ。それは明堂の躰を支える腕で、引き離そうとする手を見てから、視線を上級生の顔に移す。 「君、随分と元気そうじゃないですか。さっきは、とてもつらそうにしていたのに?」  綺麗という表現が似合う、整った顔に睨まれた上級生は、あまりの迫力にたじろいだ。 「そ、それは――」 「はじめから仮病なのは、わかっていました。もう一度同じことをしたら、ここを出禁にしますよ」 「……すみませんでした」 「早く授業に戻りなさい。いいですね」  明堂をベッドに腰かけさせてから、上級生を保健室から送り出し、ふたたび戻ってきた。 「最近はああいう輩が多くて、結構困ってるんです。本当はいけないんですが、保健室の鍵をかけてしまいました」 「それって……」 「具合、悪いんでしょう? 静かに寝かせてあげたくて」  ベニーは屈みこみ、自らの手で生徒の上靴を丁寧に脱がせてから、ベッドの上に明堂の両足をのせる。 「ロレザス先生、そこまでしなくても」  されることに躊躇している明堂の上半身を横たえさせながら、目の前で切なげに微笑む。儚いという言葉が思い出される笑みの美しさに、思わず釘付けになった。  注がれる視線を受けて、ベニーは甘えた口調で明堂に問いかける。 「好きな相手に尽くしたい私の気持ちくらい、汲んではいただけませんか?」

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