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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい25
「でも以前よりは、マシになってるんです。お金をせびられたり、殴られたりするほうがまだいい」
「回数は減っているのですね?」
「減ってはいるんですけど。他人からじゃなく兄さんが――」
作り笑いが次第に崩れていき、口元を引きつらせるものになった。
「明堂会長……、お兄さんが君に?」
明堂の表情の変化に、ベニーの面持ちも暗いものに変わる。
「僕がはじめて襲われたのは、2ヶ月くらい前だったかな。クラスメート数人に階段の踊り場でボコボコにされそうになっているところを、見知らぬ3年生が助けてくれました」
「それで?」
ベニーは頭を撫でていた手を背中に移し、いたわるように上下にゆっくり撫で擦る。
「それからその3年生は僕を見かけると、声をかけてくれるようになったんです「大丈夫か」って。優しく声がけされることに、安心感とか信頼感が芽生えて、すっかり頼ってしまったんです。そんなある日」
「君のその信頼感を覆すことが起こった」
ずばりと言いきったベニーの言葉を聞くなり、明堂は下唇を噛みしめながら、白衣を掴む手に力を込める。それを感じとった目の前に躰が、キツいくらいに自分を抱き寄せた。お蔭で陰っていた過去を、すんなりと口にすることができると思った。
「普段のように他愛のない話をして歩いていたら、音楽室の前を通りかかった瞬間にいきなり引っ張られて、中に入れられました。いつもは鍵がかかっているのに、この日だけなぜか鍵がかかっていなかったんです。どんなに大声をあげて助けを求めても、誰も気がつかなくて」
(ロレザス先生はあのときの3年生と同じように、僕に安心感を与えたあとに、同じようなことをするんだろうか……)
穏やかな胸の鼓動を聞きながら、そんなことを考えてしまった。
「その3年生は確信犯でしょう。君の信頼を得て油断させ、防音設備の整った場所に連れ込んだのですから」
「だけど途中で兄さんが駆けつけてくれて、未遂に終わったんですけど」
明堂の言葉に、ベニーは神妙な面持ちになった。
「……防音の音楽室に君がいることが、よくわかりましたね」
「あのときは抵抗するのに必死で、そこまで頭がまわりませんでした」
「そのあと、どうなりましたか?」
ちょっとだけ腕の力を緩めたベニーが、明堂の顔を覗き込む。そのまなざしから、好奇心や興味で訊ねているのではないとわかった。つらそうに眉根を寄せて、自分の気持ちと寄り添おうとする雰囲気が伝わってくる。
「昼休みなのに、そのまま家に連れられました。僕を風呂場に押し込めて、「綺麗にしろ」ってシャワーをかけられて」
「綺麗にするだけじゃ終わらなかった――」
しかも明堂の過去を見たかのように言葉にしてくれることは、兄につけられた見えない傷口が開くことを、多少なりとも防いでくれる形になった。
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