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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい26
「僕を浴槽に移動させて逃げられないようにして、そのまま……」
そのときの光景が、色褪せた状態で再生される。温水のシャワーを浴びて体温が上がっているはずなのに、躰の震えをどうしても止めることができなかった。自分を見下ろす兄の視線が言い表すことのできないほど冷徹で、心の底まで凍らされたから。
『おまえに隙があるのが悪い』
『気のあるふりをして、どうせ自分から誘ったんだろう?』
『嫌がってるくせに、いい反応してるじゃないか』
投げつけられるセリフのすべてがすごく悲しいものだというのに、あのときはひとつも否定すらできずにいた。それ以上に嫌だったのが、躰に触れる兄の手に感じたくなかったのに躰は快感を求めて、喘ぎ声をあげたことだった。
「ううっ……やめっ、兄さんもう本当にっ…ぁ、あああ!」
「明堂くん、大丈夫です。ここにお兄さんはいない。いるのは私だけです」
力強い声が、現実へと一気に引き戻した。目の前にある赤茶色の双眼が、心配そうに自分を見つめる。それを認識した途端に、躰中の力が抜けていった。
「これ以上は聞きません。思い出したくないことで、君を傷つけてしまいましたね」
ベニーは沈んだ声で告げてから、跨っていた明堂から躰を退けて、今度は自分の膝の上に座らせる。背後から両腕を回し、さきほどと同じように強く抱きしめた。
顔を突き合わせないそれは、どこか寂しく感じさせるものなのに、背中に伝わってくるぬくもりのお蔭で、明堂の中に安堵感が満ち溢れる。
「君を傷つけたお詫びをしたいのですが、私にしてほしいことはありませんか?」
「ロレザス先生が僕にお詫びなんて、そんなの……。大丈夫ですから」
「でしたら君が私にしてみたいこと、やってみてもいいですよ」
「僕からロレザス先生に?」
顔だけで振り返って、傍にいるベニーにわざわざ訊ねてしまった。視線を絡めるように見つめ返されるとどうにも恥ずかしくて、慌てて顔をもとに戻す。
「ふたりきりのときは、ベニーと呼んでください。大好きな君に、名前で呼ばれたいです」
「ええっ」
「なんて私がしてほしいことを、先に言っちゃいましたね」
小さく笑う声に導かれるように、もう一度振り返ると、綺麗な色の唇が目に留まった。オレンジとピンクの中間色をしている唇の美しさに惹かれて、右手でそっと触れる。指先に感じる湿った肌と柔らかな質感は、明堂の胸をいやおうなしにときめかせるものだった。
「明堂く……、いえ弘泰」
触れたままでいる唇から自分の名前がいきなり出てきて、痛いくらいに胸がドキドキした。
「弘泰、遠慮なくしたいことを言ってください」
「べ、べっ、ベニー先生に、したいこと」
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