203 / 332

抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい27

 唇に触れたままでいる人差し指を、ベニーの唇がなんの前触れもなく食む。 「あっ……」  意味深にまぶたを伏せながら、ちゅっと音を立てて軽く吸ったあとに、指先をぺろぺろ舐める。たったそれだけのことで、明堂の下半身が熱をもった。 「ベニー、せ、先生っ」 「早く言ってくれないと、君の困ることをしそうです」  舐めていた指先を解放したと思ったら、今度は一気に咥え込む。ぬめりけのある肉厚の舌が、人差し指をなぞるように蠢いた。   「うっ! これ以上は困りますっ!」  変な声をあげそうになり、慌てて静止するしかなかった。頬だけじゃなく躰中のぜんぶが熱くて、自然と息がきれてしまう。  一瞬だけ瞳を細めたベニーは、明堂の顔を見ながら、やんわりと人差し指を解放した。 「だったら、早く言ってください」  充分に湿っている人差し指を握りこみ、上目遣いで傍にある顔を見やる。 「や、やりたいこと、は、その……。キス、したい、です」 「いいですよ。いつでもどうぞ」  小さく笑ったあと、静かに瞳を閉じてキスされる体勢を作った姿に、明堂はぶわっと緊張し、握りしめる拳に汗をかいた。 「あのすみませんっ、は、はははじめてなので、失敗するかもしれないのですが」 「失敗したとしても、私は痛くもかゆくもありません。君のやりたいことを、すべて受け止めてあげます」  その言葉に勇気をもらい、しっとり汗をかいた手でベニーの両肩に触れて、躰が逃げないように固定した。そのまま顔を寄せて息を止めつつ、目の前にある唇に自分の唇を押しつける。  時間にしたら、数秒だけの接触――本当はもっと触れていたかったのに、恥ずかしさや緊張などで継続することができなかった。 「ぁ、あり、ありがとうございましたっ。こんな僕のお願いをきいてくれて」 「弘泰、こちらこそありがとう。君のはじめてをもらえて、とても嬉しいです」  おどおどする明堂に、ベニーは手を伸ばして頭を優しく撫でた。 「ベニー先生、ごめんなさい! 本当は嫌だったのでは……」 「え?」  頭を撫でられながら上目遣いで目の前を見た明堂は、慌てふためきながら、そっとベニーの頬に触れる。 「嫌なことをしてしまって、すみませんでした」  ベニーは触れられてはじめて、涙していることに気がついた。 「これは嬉し涙です。大好きな君からのキスが、嫌なわけないじゃないですか」 「嬉し涙?」 「私としては、待ち望んでいたのです。ここに来てから君に逢う時間を作れずに、相当やきもきしていましたしね」 「ベニー先生……」 「弘泰、君が好きです。あとどれくらい好きと伝えたら、私のことを好きになってくれますか?」  切なさと慈愛に満ちたまなざしに見つめられた明堂は、対処に困り果てた。愛の告白と同時に、この状況を覆すすべを知らなかった。  ベニーの頬に触れた手を退けたいのに、とめどなく溢れる涙のせいで、てのひらを使って受けとめることに必死だった。 「私の涙を止めたければ、もう一度キスしていただけませんか?」 その要求に明堂は――。

ともだちにシェアしよう!