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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい33

 口元を拭ってこちらを見るしたり顔の明堂は、いつも見ている人物と、明らかに違っていた。慈愛に満ちた優しげな目つきではなく、犯罪者でも見るような白い目で自分を眺める明堂に、ベニーは睨みつけながら対峙して、相手の出方を待った。 「さすがは元男娼、相手を感じさせるのはお手のものだね」 「なぜ、そのことを知っているのです?」 「だって俺には、前世の記憶があるからさ。ローランド・クリシュナ・アジャのね」  相棒のローランドから聞いていた話とは違う事実を突きつけられたことに、驚きを隠せない。久しぶりに聞いたローランドの名に、違う意味で心臓が高鳴った。 「まさか、そんな……」 「執事のおまえが自殺幇助さえしなければ、愛するアーサー卿ともっと長く愛し合えるはずだった。自分の想いを叶えたい欲望だけで、間接的に俺を殺しやがって!」  怒鳴られた勢いをそのままに、いきなり頬を打たれた。乾いた音を耳にしてはじめて、自分が叩かれたことを知る。 「弘泰……」 「弘泰はなにも知らない。おまえを好きと言ってるけど、気持ちよくなりたいだけで言ってる。自惚れるなよ」 「私はそれでも構わない。弘泰を愛してるから」  頬を打たれた痛みよりも、ベニーの心が悲鳴をあげていた。それは正常な判断を奪うくらいの、衝撃を受けたせいだった。 「ベニー、おまえがどんなに愛しても、この躰はやらない。いいところで俺が乗っ取って、とことん邪魔をしてやる。気持ちよくなるのは、他のヤツに跨るときだ」 「お願いです、弘泰の嫌がることをしないでくださいっ!」  縋るように、細身の躰に両手をかけて懇願する。心配するベニーの視線をないものにするためなのか、明堂はせせら笑って口を開いた。 「おまえの指図は受けない。俺を殺したおまえが憎いから」 「憎いのは私なのに、どうして弘泰に痛めつけることをするのです?」  明堂は縋りついたベニーの両手を叩き落とし、舌打ちして苛立ちを表す。 「自分が苦しいときだけ俺にチェンジして、いつも苦痛を押しつけるからさ」 「どっちにしろ、弘泰がつらい目にあってる事実は変わりありません。私はそれを助けたい」 「はっ! そんなこと言って、この躰で気持ちよくなりたいだけだろ」  明堂の両目から、強い憎悪がチリチリと燃えるのを感じとった。自分に向けられるそれをしっかりと受け止めつつ、素直な気持ちを言の葉にのせる。

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