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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい49
***
逢いたいと思っていた明堂が、浮かない顔で保健室にやって来た。頭痛がして寒気がするという彼をベッドに寝かせたベニーは、体温計を持って枕元に腰かける。
「それで、いつから頭が痛かったのですか?」
「……ついさっきです」
ベニーとしては明堂の顔色を窺うべく、顔を突き合わせたかったのに、なぜだか布団を鼻まで引き上げられてしまった。
「ついさっきですか、なるほど……」
他にも具合の悪い生徒が隣で寝ているので、あまり個人的なことを喋れない状況に、ベニーは落胆を隠せなかった。
「とりあえずこれで、体温を測ってくださいね」
沈んだ声で言いながら、体温計を持っていない手を布団に突っ込み、明堂の手を探す。捕まえたと思った矢先に、ベニーの指先が強く握りしめられた。
「ひろ……、明堂くん」
いつものくせで、つい名前を呼びかけてしまったことに焦りつつも、名字に言い直してあらためて呼んでみる。それなのに強く握りしめる明堂の手の力が、緩められることはなかった。
「ベニー先生」
「なんですか?」
「僕だけじゃなく、たくさんの生徒から名前で呼ばれて、すごく楽しそうですね」
「楽しいか楽しくないかを選択されるのなら、楽しいと言っておきます」
そう告げた途端に、握りしめられていた指先が解放された。今度はベニーが明堂の手をぎゅっと握りしめて、自分から逃げないようにする。
素早い動きに対処できなかったのか、明堂はされるがままでいた。
「放してください」
「たくさんの生徒に名前で呼ばれても、ここに来て一番最初に名前で呼んだのは明堂くん、君がはじめてですからね。それは誰にもできないことです」
あえて知らしめるべく、ハッキリと言い切った。
隣で寝ている生徒は、ちょくちょく顔を出す常連で、自分に気があることがわかっていたからこそ、効果があるだろうと考えた。
「それは、そうですけど……」
「しかも最近の明堂くんは忙しいのか、以前のように保健室に来なくなりましたね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
文句のような明堂の言葉を聞き、ベニーは捕まえた手を布団から出して、甲にそっと口づけを落とした。
「私を名前で呼べる権利のことでしょうか」
「ベニー先生は人気者ですから。今じゃカースト上位者まで、僕に話しかけに来ますよ」
「名前呼びなんて、きっかけでしかありません。これは君の力なのです。それは――」
理由を話しかけた刹那、保健室にノックの音が響いた。
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