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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい50

「失礼! 2年の石井が、ここでサボってるって聞いて迎えに来た」 「バーンズ先生、わざわざお迎えご苦労様です」  保健室に入ってきたローランドを出迎えずに、明堂の手を繋いだまま、腰かけているベッドから顔をあげた。  いつもと様子の違うベニーを見て、ローランドは「おっ!」と短い声を発したのちに、石井という生徒が寝ているベッドに駆け寄る。 「俺の授業をサボっているだけじゃなく、具合の悪いふりして、忙しいベニーの手を煩わせやがって」  ローランドとしては、ふたりの事情を知っているゆえに、目を吊り上げながら、石井という生徒の首根っこを掴みあげ、無理やり引っ張り起こした。 「ローランド先生よりも、ロレザス先生と一緒にいたほうが、超絶楽しいんですって」 「保健室を利用する生徒は、怪我をしたとか、体調が悪いものと決まってるんだ。おまえの個人的な理由で、ここを使うんじゃない!」  他にもくどくど文句を言いながら、ふたり揃って保健室を出て行った。 「弘泰、やっとふたりきりになれましたね」 「僕は別に……。なんとも思わないです」 「ちょっと待っていてください。不在のカードにしてきます」  繋いでいる手を離そうとしたら、明堂の手がその動きを止める。 「弘泰?」 「離れたくない。このまま傍にいてください」 「私としては、邪魔が入らないようにしたいのですが」 「みんなから名前で呼ばれて、楽しそうにしてるベニー先生を、こうして独り占めしたいんです!」  やっと本音を吐露した明堂を、ベニーは笑いながら布団ごと抱きしめた。 「私だって、弘泰と同じ気持ちでいるのですよ」 「えっ?」  本当はこのまま、明堂を抱きしめていたかったが、いつ誰が入ってくるかわからない保健室では、それができない。ベニーは明堂が納得する言葉を、頭の中で必死に考える。 「最近の君の周りには、いつもクラスメートがいるじゃないですか。私が、妬かないとでも思ったんですか?」 「妬く必要ないのに。僕はベニー先生が好きだから」 「弘泰が私を好きでも、クラスメートが具合を悪くしてここで寝ている君を狙おうと、保健室にやって来たらどうします?」 「そんなこと、絶対にないですよ」 「私としては少しでも可能性がある限り、それを潰したいと思っているんです。不在のカードにしてきていいですね?」  否と言わせない視線を、明堂に注ぎながら告げると、渋々首を縦に振った。

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