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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい51

 離れる前に、明堂をぎゅっと強く抱き締めてから腰を上げ、颯爽と扉に向かう。手早くプレートをひっくり返したのちに扉を閉めて、しっかり鍵をかけた。 「さてと、弘泰。聞きたいことがあります」  ふたたび腰かけて枕元に座ると、明堂がもそもそ起きだした。 「なんですか?」  気だるそうな雰囲気を醸していることに、ベニーとしては違和感を覚えたが、聞いてみたかったことを口にする。 「お兄さんの件について」 「あ……」 「病気療養のために休学したと先生から聞きましたが、詳しい情報が上からおりてこなくて。元気そうだった彼が、深刻な病とは考えにくいですし」  言い終えないうちに、明堂はベニーの片腕に縋りつき、顔を俯かせたまま説明をはじめる。 「ベニー先生に言われた言葉を、思いきって実践してみたんです」  そのときのことを思い出したのか、縋りつく手が僅かに震えだした。 「弘泰、腕を離してください。宥めようにもこれでは、君を抱きしめられません」 「ベニー先生……」 「ふたりきりのときは、ベニーと呼んでください。私は君のものなのですから、さあ」  飛び込みやすいように胸を広げると、迷うことなく明堂はベニーの躰に抱きついた。 「弘泰……」  苦しいくらいに自分を抱きしめる明堂の頭を、何度も何度も優しく撫でてやる。 「僕、ベニーに言われた『抗ってみませんか』って言葉に、思いきって従ってみたんです。なけなしの勇気を出しました」 「お兄さんが、君を襲ってきたときにですか?」 「はい。頭の中でマモルが代われって言ってきたけど、それを無視して兄さんに抵抗したんです」  ベニーは頭を撫でていた手で、明堂の躰を抱きしめ返した。 「今までできなかったことを、よくやりとげましたね」 「ベニー以外に、触れられたくなかったから。だって僕は、ベニーのものなんでしょう?」 「ええ、そうですよ」 「だったら、キスしてください。僕をこのまま奪って」 「弘泰聞いてください。君の中にいるマモルのことです」  腕の力を抜いて明堂の顔を見つめながら、説得を試みる。  熱情に動かされて自分を欲しがる彼を、うまくコントロールできる気は、正直なかった。でもここで感情に流され、欲情を満たす行為に及んでしまった場合、間違いなく明堂の中にいるマモルが、何かしでかす恐れがある。  それだけは阻止しなければと心を鬼にして、明堂に語りかけた。

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