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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい53

「んあっ! い、やだっ」  大きな声をあげたと同時に白目を剥き、がっくりと顔を俯かせる。 「弘泰、どうしましたか?」  俯いた顔を見ようとしたら、肩を掴む片手をいきなり叩かれた。抵抗を示すその行為で、慌てて両手を外す。 「ベニー、少しは抵抗すれよ、まったく!」 「すみません。弘泰に求められる悦びに、つい身をまかせてしまいました」  小さく頭を下げて、謝罪を口にする。言葉遣いの違いに、マモルと交代したのがすぐにわかった。 「いい大人が、高校生に翻弄されるなって。俺が嫌がってるのが、わかってるくせにさ」  おずおずと目の前を見ると、明堂の顔をしたマモルは、突き放した言い方をしたというのに、それに比例する態度をしていなかった。  どこか嬉しげに瞳を細めながら、ベニーを見上げる。 「マモル?」 「おまえが弘泰に余計なことを言ったせいで、俺の仕事が激減しちゃっただろ。どう責任をとってくれるんだ?」 「責任と言われましても……」 (どういうことでしょうか。マモルの言葉と態度がちぐはぐで、何を考えているのか、さっぱりわかりません) 「弘泰の性格から、こういうことになるのを、予測していたんだろ。ベニーとしては、どう対処しようと考えていたんだ?」  笑いながら額を人差し指で突っついて、顔を覗き込んで問いかける。明堂の目の中に映る自分の顔は、思いっきり困惑していた。 「話し合いでその……、対処しようとは思っていたのですが」 「話し合いって、どんな?」 「まずは、ねぎらってあげようと――」  歯切れの悪いベニーの返答を聞いた明堂は、顎を引いて近づけていた距離を少しだけ遠ざけた。 「ねぎらうって、そんなことされる覚えはないって」  まぶたを伏せて告げられるセリフを否定しなければと、明堂が自分を見ていないことがわかりつつも、首を横に振ってから丁寧に言葉を選んで語る。 「私と同じように、自殺できない躰に弘泰が転生した以上、どんなにつらいことがあっても、メンタルが強くなければ、やがて精神が崩壊していたと思うんです。それを君が自ら盾となって、防いでくれていたのですよ。ねぎらって当然のことかと思います」  ベニーが今までのことを整理して説明したら、目の前にある笑顔がちょっとずつ崩れていった。 「だって俺がこの世で生きるためには、そうするしか手がなかった。弘泰の心のバランスがぐにゃぐにゃになっていくのを、見ていられなかったんだ」

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