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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい54

 ところどころ詰まりながら、言葉を吐き出すマモルに、ベニーは宥める口調で優しく話しかけた。 「マモル、君の頑張りのお蔭で、私は弘泰と出逢うことができました。つらいことから逃げずに、よく頑張りましたね」 「ベニー……」  ベニーは一旦立ち上がってから、姿勢を正して床に片膝をつき、マモルの利き手を取って顔を上げた。 「君のその頑張りに、私はなにをお返ししたらいいのでしょうか」  斜め下から注がれる慈愛のまなざしに、マモルは眉根を寄せながら、繋がれた手を振り解こうと力を込める。 「そんなの、いらないし……」  否定する言葉と一緒に、引っ込めようとした手を絶対に離さない勢いで、ベニーはぎゅっと握りしめた。 「君の望むことを、どうか申しつけてはくれませんか? 出来る限りのことを尽くします」 「俺はそんなの――」 「この距離感、覚えはありませんか?」  ベニーが話題を変えたことで、拒否る言葉を塞がれたマモルは、告げられたセリフの意味をなんとか思い出す。 「距離感って、近すぎない微妙な感じのことか?」 「ええ。私は大層、懐かしく思います」 「それはおまえが、執事をしていたときの……」 「奪いたいほどに手を出したかったのに、それができない、ローランド様にお仕えしていた、執事時代の距離ですよ」  艶を含んだ声色に、目の前にある顔があからさまに強ばった。 「安心してください。君の嫌がることは、絶対にいたしません。これ以上、嫌われたくないのです」 「信じられるかよ、そんなの。この躰が欲しくて、しょうがないくせに!」 「躰と一緒に、心も欲してます。君のすべてが欲しい」  切なげに語られるセリフを聞いて、マモルはやるせない表情を浮かべた。 「おまえあのとき、それだけ俺を欲していたくせに、どうしてとっとと奪ってくれなかったんだ……」 「私だけではなく、アジャ家男爵としてローランド様は大切な存在だったのです。執事ごときの私が、おいそれと手を出せるわけないでしょう?」 「あんなつらい想いをするくらいなら、迷わず奪って欲しかった! アイツみたいに俺を奪って、そして――」  マモルは空いた片手で無理やり解き、繋いでいる手を奪取したというのに、ベニーは両手でその動きを封じた。掴まれた両手指が、痛いくらいに握りしめられる。 「そういうことを、私は前世でおこなっていたのです。強引に奪うことからはじまる恋愛は、けしてうまくいかないのですよ」 「いくじなし!」  怒号に似たマモルの声だったが、ベニーはあえて微笑んでみせた。ローランドの記憶を持つ彼とこうしてやり取りできることに、幸せを感じずにはいられない。

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