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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい55

「うまくいかないことがわかっていたからこそ、地道に距離を縮めていたのですがね。ですが私に魅力がないせいで、執事以上に見てもらえなかった」  マモルを掴んでいる両手の力が、言葉尻ですっと抜け落ちた。外れかけるそれを捕まえるように、ベニーの指先を握りしめた。  ギリギリのラインで拘束された両手を、ふたり揃って眺める。 「確かにおまえは、俺にとってただの執事だった。でも傍で仕える姿を見ていて、惹かれていたところがあったんだぞ」 「えっ?」  予想をしていなかった言葉に、目を見開きながら視線をあげて、マモルの顔を凝視する。 「俺は傍から見たら、どこにでもいる若造だったから、貴族のような威厳と気品を漂わせるおまえを見て、何度立場を変えたいと思ったことか……」  まぶたを伏せて自嘲的に微笑むマモルに、ベニーは畳み掛けるように言の葉を紡ぐ。 「どこにでもいる若造なんて、そんなことはございません。威厳なんていうのは、あとから嫌でもついてくるものですし、ローランド様は、年齢以上の気品を兼ね備えておりました」  手元を見つめていたマモルの視線が、ゆっくり上げられる。ベニーの顔をじっと見つめながら、震える声で返事をする。 「そうやって隅々まで気配りしながら、あれこれ尽くしてくれるベニーに、俺は思いっきり甘えていたところもあった。だからこそ、このままではいけないって、虚勢を張ってたんだ」  マモルは当時の気持ちを、素直に語った。そのことによりベニーの表情は、一層柔らかなものへと変化する。それを目の当たりにして、同じような面持ちを作り込んだ。  そんなマモルの表情を見て、ベニーは胸を熱くしながら口を開く。 「存じております。若くして男爵を引き継いだ関係で、相当なご無理をしていたことも、すべて把握済みです」 「死ぬ間際におまえの優しさが身に染みて、心の底から後悔した。こめかみに当てたグロックがやけに重くてさ、トリガーをかけた指先に、なかなか力が入らなかった」 「そうでしたか。それで銃声に、妙な間があったんですね」 「やっぱり外から聞いていたのか。帰れって言ってたのに、おまえってヤツは……」  俺の命令を無視しやがってと呟いた言葉は、やっと聞きとれるものだった。嗚咽とともに大粒の涙が、マモルの頬を伝っていく。 「命令を無視して、申し訳ございませんでした。主の最期を見届けるのも、専属執事の勤めだと判断したまでです」  ベニーは胸ポケットからハンカチを取り出し、止めどなく溢れる優しく拭った。 「もしめぐり逢えたのならベニー、現世で愛せなかった分だけ、おまえを愛したいと思った。たぶんその想いが、俺を作ったんだと思う」

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