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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい57
「絶対に忘れません。ローランド様と同じようにマモル、君個人のことをしっかり覚えておきます。それくらい、大切な存在なのですから」
「自分自身の躰がない、ちっぽけな俺みたいなのを、ベニーは忘れずにいられるのか?」
自身の秘めた想いを込めたというのに、つっけんどんな物言いでマモルは訊ねた。
「ちっぽけなんて存在ではありません。君のおこなった功績は、私の中で生き続けるのです。弘泰への愛の形で――」
「ベニー……」
ベニーに縋りつくマモルが、おずおずと顔を上げた。剣のない眼差しに見つめられるお蔭で、今まで疑問に思っていたことが、躊躇することなく訊ねられそうだった。
「私たちはしてはいけない自殺という行為で、こうして生まれ変わったわけですが、君はどのようにして、肉体と魂を繋げているのでしょう?」
「え? それってどうして」
「ちなみに私は、死んだばかりの魂を捕らえて食し、この身に補ていしてます。この道具を使って、魂を狩るんです」
言いながら魂を捕らえる際に使う、光り輝く銀の銛(もり)を、右手に浮かびあがらせた。
「銛の柄についてる赤い紐って、髪の毛を縛ってるのと同じものなのか?」
「ええ。切っても問題なさそうだったので、使っております」
「俺はこうして、エネルギーを補給してる」
マモルは歯茎がでるくらいに唇を開き、伸びきった犬歯を見せる。
「吸血ですか……」
「狙った相手の目を見つめて、動かないように催眠を施し、酩酊状態にしてから、首筋に噛みつく。噛んだあともすぐに皮膚が再生されて、痕が全然残らない」
マモルはわかりやすい説明しながら、ベニーの首元に顔を寄せて、はぐっと噛みつく。
「んっ!」
痛みは感じなかったものの、肌をなぞる舌の動きや血をすすって喉を鳴らす音が、すぐ傍で鮮明に聞こえ、ベニーは妙な気持ちになってしまった。
「やっぱりな」
牙を抜くなり告げられた言葉を不思議に思いながら、噛まれたところを撫でてみる。吸血された痕跡だけじゃなく、肌を舐められた湿り気すら、まったく感じさせなかった。
「マモル?」
言葉の意味がわかりかねて名前を呼ぶと、至極つまらなそうな表情を見せた。
「血を吸うと躰の気だるさがなくなって、パワーが漲る感じになるんだけど、ベニーを血を吸ってもなにも感じない」
「ということは君や私と同じく、蘇った人間の血を吸っても、無意味なんですね」
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