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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい59

 マモルはベニーを抱きしめ、両腕に力を入れながら、涙声で語りかける。 「ベニーにそんなこと言われたら、俺に未練が残るだろ。そのせいで消えたくないっていう思いが出ちまったら、いつまでたってもこの躰を、弘泰に明け渡せなくなる」 「それでも君はその想いを引きずったまま、弘泰に吸収されるでしょうね」  あえてそのことを口にした言葉に、マモルは眉根を寄せながらベニーを睨みつけた。 「そんなことになったら、弘泰の躰にどんな影響が出るか、全然わからないんだぞ」 「そのときは、私が弘泰を支えます。全力で支えながら、マモルが弘泰を守ったようにお守りすることを誓いましょう。」 「大丈夫なのかよ……。そんなつらそうな顔してるくせに」  つらそうな顔をしているつもりのなかったベニーは、無理やり笑顔を作ってみせた。 「君が私のことを、嫌いなんて言うからですよ。最後くらい、好きと言ってほしいです」 「執事のくせにっ、わが、ままばか…り言いやがって!」 「主の躾も私の仕事です。違いますか?」  問いかけたベニーの口調は、いつも通り落ち着き払ったものに対して、マモルは答えることができなかった。とめどなくあふれる涙に頬を濡らし、目の前にある顔を見つめる。  まるで、愛しい人の顔を焼きつけるように凝視するまなざしを受けたからこそ、ベニーは姿勢を正しながらそっと呟く。 「ローランド様……」 「くっ!」 「肉体は生まれ変わっても、魂はローランド様そのものでございます。私が心底愛したお方に違いありません」  躰に抱きつくマモルの両腕をやんわり解き、片膝をつきながらしゃがみ込む。 「ローランド様、最期の願いを仰ってください。私にできることなら、どんなことでも叶えて差しあげます」  主からの命令を待つ執事のように、手を胸に当てて首を垂れるベニーを、マモルは涙を拭いながら見下ろした。目の前にいるベニーの姿と、男爵として自分に対峙していた執事の姿が、うっすらと重なった。 『高貴で美しく賢さも併せ持っているというのに、支えてあげなければならない儚さを持つ貴方様だからこそ、私はお傍に仕えながら愛した――』  切なげな表情で自分の気持ちを語ったベニーの告白が、なぜかマモルの頭の中に流れる。

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