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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい60

(ああ、きっとこのまま弘泰に、俺が吸収される頃合いなんだろう。俺の願いを、早く言わなければ……) 「ベニー・ロレザス、おまえに命令する。その命をかけて、弘泰を愛し続けろ。弘泰がほかの誰かに目移りしないように、しっかり愛情を注ぎ込み、自分から離れないように全力で尽くしてやれ」 「ローランド様……」 「変に気をまわしすぎて、遠慮なんてするなよ。それで前回、失敗してるんだからな!」 「そのお言葉、肝に銘じます! 必ずやそのご命令を叶えてみせましょう」 「頼んだぞ、ベニー。今度こそ、おまえの想いを成就させろよな」 「畏まりまし、たっ……」 「バカだな、泣いて見送るな。笑ってくれ、じゃあな!」  マモルは満面の笑みを浮かべながら、静かに瞳を閉じる。すると躰全体から、真っ白なオーラがどこからともなく現れ、弘泰の躰を包み込んだ。 「ローランド様っ!」  ベニーが悲痛の叫びをあげたと同時に、真っ白なオーラが薄まり、やがて弘泰は目を開けた。 「ベニー、先生?」 「あ……、弘泰に戻りましたか」 「ベニー先生、どうして泣いて……」  弘泰が呟くと、様々な映像が頭の中に流れはじめた。目の前にある泣き顔のベニーとリンクする映像が、なぜだかタイミングよく表れる。 『ぉっ、お助けできずに、申し訳ございません。申し訳、ございませ……んっ』  今よりも髪の短いベニーは、肩の位置で髪を束ねた髪型で、執事の恰好をしていた。顔をぐちゃぐちゃにして泣き崩れる様子から、自分の身になにかあったことを悟る。 「弘泰、大丈夫ですか?」 「ベニー先生、僕はどうして貴方を、こんなに泣かせてしまったのでしょうか」  弘泰が考える間を与えない感じで、過去から現在の情報が、一気に思考へと注ぎ込まれる。その大半はマモルが代わりに受けた、酷い内容が中心だった。 「あっ! や、やだ……、あぁああ゛あ゛ぁっ」 「弘泰っ、弘泰……」  ベニーは迷うことなく、弘泰の躰をぎゅっと抱きしめた。マモルに誓った言葉を実践するために、弘泰を支える両腕に力が入る。 「こんなこ、とが…これをぜんぶ……、マモルがっ」 「代われるものなら、代わってさしあげたい」  悲痛なベニーのひとことも虚しく、弘泰は苦痛を顔に表したまま、ふっと気を失った。自分の腕の中で人形のようにしなだれかかる躰を、強く抱き寄せてから横抱きにし、ベッドに移動させる。  ベニーが優しく布団をかぶせたあとも、弘泰の苦悶の表情は続いたのだった。

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