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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい61

***  どれくらいの時間が経ったのか――目覚めたときにはベニーは瞼を腫らしたまま、涙を見せずに弘泰の手を包み込むように握りしめていた。伝わってくる温かみのお蔭で、心の底からほっとする。 「大丈夫ですか、弘泰」 「ベニーがずっと傍にいてくれた、から…大丈夫です」 「気分は悪くないですか?」  自分を心配そうにのぞき込んでくれる双眼すら、弘泰は愛しさを覚えた。かつて男爵だった頃に与えてくれた愛情と、寸分違わぬそれを感じて、微笑まずにはいられない。 「ベニーこそ、大丈夫ですか?」 「弘泰……。私の心配など」 「するに決まってるじゃないですか。だって貴方は、僕の大切な人だから!」 「たいせ、つ……」 「愛おしくて…堪らなく愛おしくて。こうしてずっと、僕の傍にいてほしい存在です」  握りしめられている手の上に、空いた手を重ねた。ベニーよりも小さな手のひらだったが、指先に力を込めて握ってみせる。 「僕はマモルから、いろいろなことを伝えられました。同級生に虐められたことや、兄さんに襲われたこともつらかったですけど、それ以上につらかったことがあります」 「弘泰のつらい気持ちを改めて口にするのは、さらにつらい思いをするのではありませんか? 私としては、とても気が引けます」  ベニーが弱りきった表情で弘泰を眺めると、凛とした意志の強いまなざしが注ぎこまれた。そのまなざしは、見覚えのあるものだった。 「……君にそんな顔をされると、惹かれる想いがますます止められなくなりそうです」 「?」 「すみません、話の腰を折ってしまいましたね。続けてください。私は大丈夫です」  弘泰は椅子に腰かけ直して背筋を立てたベニーのを見て、ゆっくり語りかけた。 「僕の傍に仕える執事のベニーを、第三者目線で見ることができたんです。男爵をしていた頃に見えなかったものが、はっきりわかった。その端々にベニーの愛が込められているのを、感じることができたんです」 「そうですか……」 「ベニー?」  妙に淡々とした口調に、弘泰は眉根を寄せてベニーの顔を見上げた。 「ローランド様は人見知りであらせられたのですが、そこを踏まえて領地の方々に愛されておりました。ご両親からもしっかりと愛情を受けて育ったお蔭で、とても良い環境下で育てられたのです」 「人々から愛されていたからこそ、ベニーからの愛も当たり前に受けていたから、気づけなかったのでしょうか」 「光は影を、影は光を好みます。私の持つ影よりも、うんと濃い影を持った伯爵に惹かれてしまったのは、ある意味運命だったのかもしれませんね」

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