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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい78
銃声を聞いた瞬間、表現しがたい解放感に包まれたあのとき、確かにそう思った――。
「躰だけじゃなく心までも伯爵に散々振り回されて、つらそうにしているお姿を見たくはありませんでしたので、悔いはまったくございません。私だけじゃなく、ローランド様も苦しい恋を断つことができたのは――」
「本当によかったと、間違っていなかったと言いきれるのか? 傍から見たらおまえのエゴを、愛した貴族に押しつけたようにしか感じないがな」
「私はローランド様に、伯爵にお手をかけることの選択権を委ねましたし、本当にそれでいいかと最後の最後で訊ねました」
「だがおまえは止めなかった。元殺人犯の俺が言うのは説得力がないと思うが、人を殺めるべきじゃない。おまえは間接的に、愛する人と恋敵を殺したことになる。そんな人間に、大事な弘泰をやれるわけがないだろ」
互いに間髪おかずにやり合った結果、ベニーはしまったと思った。話の流れが急に変わってから妙だと思いつつも、素直に心の内を吐露したことを後悔したが、すでに遅し――。
「おっしゃる通りです。私は間接的に人を殺めました。自分の恋を叶えるためにおこなったことです。間違いありません」
それでも視線を外さず、真っ直ぐ前を見据えて答えた。
「弘泰はおまえが愛した貴族とは、まったく違う人間だ。それなのに、どうしてここまで追いかけてきた? 俺には到底理解できない」
力なく首を横に振り、肩を竦めて理解できないことをアピールされても、ベニーにはベニーなりの譲れない信念があった。それは他人に理解できないことなので、どう説明すればいいのか困窮を極めてしまい、声を出しかけては飲み込むを繰り返す。
「答えられないのか?」
とげを含んだ声色がベニーの思考を粉砕した。膝に置いていた手を握りしめ、すぅっと息を吸い込む。
「私の想いはきっと、誰にも理解できないものだと思います。理解できないものについて説明を促されても、うまく答える自信がございません」
「それでも、答えなければならない相手だとは思わないのか? 随分軽んじられたものだな」
「そんなことは……」
「理解できないと言ったが、それでも質問を投げかけた。俺に理解させようとする努力を怠った時点で、おまえの想いはその程度だということなんだ」
一気に血の気が引いていく感覚を覚える。告げられた内容が的確すぎて、ぐうの音も出ない。
「申し訳ございません」
謝罪の言葉を反射的に口にしたが、それ以上のセリフを話すことができなかった。
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