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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい79

「謝るだけしかできないのか……」  居心地の悪い雰囲気を一掃した弘泰の見守り人の言葉に答えなければと、口を開いてみたものの、「そんなことはないのですが」という情けないひとことを告げるのがやっとだった。 「おまえは弘泰を追いかけるにあたり、自分のリスクを考えなかったのか?」 「そうですね。間接的に人を殺めたことについては、なにかお咎めがあるかもしれないと考えましたが、異世界に転移することについては、まったく考えておりませんでした」 「この問いについては即答するんだな」  目の前を見ていられなくて、まぶたを伏せる。出された湯飲みの中の水面に、困惑した顔が映り込んでいた。 「答えにくい質問ではなかったので、思ったことを答えたまでです」 「これまでのやり取りを経て、自分の気持ちを素直に答えたことに関しては、おまえの印象は悪くなかった」 「えっ?」  意外なセリフに目を見開き、顔を上げて弘泰の見守り人の顔を凝視した。 「自分を良く見せようと誇張して物事を話したりせず、悪いことは悪いという、まともな判断能力があることもわかった。おまえは少しだけ、信用できる人間なのかもしれないが……」  一旦言葉を切り、お茶を飲む弘泰の見守り人の姿を、ベニーは口を開けっぱなしのまま見つめた。褒められ続ける現状が、どうにも信じられない。なんとなく胡散臭さすら感じた。 「あえて指摘するなら、その場の状況に応じた判断能力が悪い。リスクを考えないで自分の想いを優先することのすべてが悪いわけではないが、それに弘泰が巻き込まれたらたまったもんじゃない」 「私も弘泰が大事です。厄介事に巻き込まないように、細心の注意をはらいます」  ベニーとしては、当たり前のことを告げたというのに、お腹を抱えながら目の前で大笑いされた。 「なにがそんなに可笑しいのでしょうか?」  眉根を寄せながらムッとして見せても、乾いた笑い声がリビングに響き渡った。

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