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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい88

***  学校が終わり、ベニーが運転する車に、嬉しさを頬に滲ませた弘泰が乗っていた。  ことのはじまりは昼休み。相変わらず満員御礼の保健室に顔を出した弘泰は、他の生徒に気づかれないように、そっとベニーに手紙を渡した。  そのときは仕事に没頭すべく、名残惜しげに出て行く後ろ姿を見送り、保健室でやるべきことを優先する。弘泰から手渡されたラブレターを早く読みたい一心で、手際よく仕事を終えた。  ひとりきりの保健室で、ドキドキしながら書かれている文面に目を落とす。 『ベニーへ 昨日はベニーとひとつになることができて、すっごく嬉しかったです。僕の具合が悪くなり、保健の先生の車で自宅まで送ってもらったことを、父が母に話をしました。そしたら母がお礼に今晩の夕飯をご馳走したいと言い出したんですけど、うちに来ていただけませんか? 放課後、また保健室に顔を出します。 弘泰』 「弘泰の見守り人が、わざわざ家族に私のことを喋った……。車で送り届けた以外を告げたのなら、弘泰からの手紙は、もっと深刻なものになるでしょうね」  ベニーは顎に手を当てながら、書かれている文章を何度も読み返し、そこから見えない真意を探ろうとした。 「先輩に報告……」  なんとはなしに呟いて、はっとする。持っていた手紙を机に置き、奥歯をぎゅっと噛みしめた。泣き出さないように、我慢するために。  異世界転移をしてからというもの、ベニーはなにかあれば真っ先にローランドに報告し、一緒に頭を悩ませていた。 『ベニーちゃんは無駄なことを、うだうだ考えすぎなんだよ。前はそれで失敗してるんだから、遠慮なく俺に相談すれよな。悩むなら、ひとりよりふたりだろ?』  満面の笑みでそう言われ、肩を優しく叩かれたのが、まるで昨日のことのような感覚に陥る。 「傍にいたのが近すぎて、貴方の想いに気づけずにいた私は、なんて酷い男なんでしょうね……」 (その想いをまんまと利用し、自分の恋愛を成就しようとしている私を、どんな気持ちで眺めていたのですか、先輩――)  机に置いた手紙の上に涙が落ちた。ひとつふたつと落ちるたびに、手紙に書かれた文字が滲んでいく。 「うっ…今ごろになって、先輩の大きさに気づかされた……。ごめんなさい、本当にごめん、なさ……」  ベニーはこみ上げてくる悲しい思いを抑えきれずに、ひとしきり泣いた。そのせいでまぶたが腫れあがり、放課後保健室にやって来た弘泰に、えらく心配させてしまった。 「ベニーがホームシックで時々不安定になるなんて、すっごく驚きました。僕ができることはないですか?」  ハンドルを握りしめるベニーに、弘泰は優しく問いかける。その心遣いにじんと胸が染みた。

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