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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい89

 ベニーの心が深く傷つき、傷口が開いたままだからこそ、弘泰からかけられる優しい言葉が嬉しくてならない。 「弘泰を好きになって良かったです。私は君よりも大人なのに、どこか子どもじみたところがあるせいで、ちょっとしたことで涙してしまうんですよ」  恥ずかしげに告げたベニーに、弘泰はそっと寄り添った。シートベルトに阻まれているのにもかかわらず、寄り添ってくれる弘泰の行動で、ベニーの口元がだらしなく緩んだ。 「ベニーだって僕が困っていたときに、手を差し伸べてくれたでしょ?」 「君と出逢ったときのことでしょうか」  ベニーよりも先に出逢い、弘泰を助けたのはローランドだった。そこのところの記憶の改ざんがどうおこなわれているのか、ちょっとだけ気になってしまった。 「僕がクラスメート3人に絡まれていて、あれ?」 「どうしましたか?」  弘泰はベニーに寄り添っていた躰を元に戻し、眉をひそめて考え込む。 「つい最近のことなのに、記憶が曖昧になっちゃってる。どうしてだか、あのときのことがぼんやりとして、全然思い出せない」 「記憶力低下ですか。弘泰は頑張り屋さんですから、たくさん勉強して頭を使ったのでしょう。私が助けてあげたじゃないですか」 「ベニーが絡んでいたら、なおのこと忘れない自信がありますよ。おかしいな……」  言いながら車窓に視線を飛ばす弘泰を、ベニーはチラリと横目で見てから口を噤んだ。変なことを自ら告げて、改ざんされている記憶をねじ曲げる行為を防ぐ。 「ベニー、車を停めて!」  突然叫んだ弘泰の叫び声に、ルームミラーで素早く後ろを確認してから、ブレーキを強く踏む。後続車がいなかったのでスムーズにできたが、危ない行為であることを弘泰に注意しようとした矢先に、さっさと車から下車されてしまった。 「弘泰?」  迷うことなく、どこかに走って行った弘泰の背中を視線で追いかけると、その足元からカラスが一羽飛び立った。そのまま塀の傍らにしゃがんでから、大事そうに抱えて戻ってきた胸元に、小さな黒猫が抱きかかえられていた。

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