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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい90
「ベニー、いきなりごめんなさい。このコがカラスに突っつかれてるのが、偶然目に留まったんです。この体の小ささは、生まれてそんなに日が経ってないですよね」
ベニーは助手席に座り込んでから、丁寧に説明する弘泰の顔を見ずに、抱えられている黒猫を息を飲んで凝視した。緊張感を纏う黒猫の瞳は、見覚えのある綺麗な空色をしていて、ベニーと目が合った途端に、身体中の毛を逆立てながら、カーッと唸る。
「クロネコちゃん、ベニーは優しい人だよ。怒らないで」
弘泰は黒猫を宥めるように、顎の下に触れて撫で続けた。それでも黒猫は眉間にシワを寄せながら、ベニーを睨み据え続ける。
あからさまに不機嫌丸出しの黒猫を眺めつつ、ベニーは弘泰に問いかけた。
「弘泰、その猫、怪我はしていませんか?」
「ちょっと待ってください。どれどれ」
「私に貸していただけませんか?」
迷うことなく弘泰に向かって、両腕を差し出す。
「確かに。保健医をしているベニーに診てもらったほうが、確実ですよね」
「実際、動物は専門外ですけど」
弘泰がベニーに手渡そうとした瞬間、黒猫が嫌がるように、じたばた手足を動かした。
「ベニー、引っ掻かれないように気をつけてください」
「ええ。随分とやんちゃみたいですし……」
ベニーの片手に収まる小さな身体から伝わってくるぬくもりを、愛おしく感じた矢先だった。黒猫が人差し指に噛みつく。
「ベニー!」
「私は大丈夫です。噛まれている間に、チェックしちゃいます」
(傍から見たら、思いっきり噛まれているように見えるでしょうに、実際は甘噛み程度なのが不思議ですね)
ベニーはクスクス笑いながら、黒猫の身体を丁寧に診た。
「外傷は見当たりませんが、感染症など目に見えないチェックは、獣医さんにおまかせしなければなりません。このコ、弘泰が飼いますか?」
訊ねた途端に、弘泰の顔色が一気に曇った。
「飼いたいんだけど、母さんが猫アレルギーなんだ。クラスメートに声をかけようかと思ってる」
「でしたら、私が飼いましょう」
「ベニーが? いいんですか?」
「これもなにかの縁。それにこのコ、私の知り合いにそっくりなんです。懐かしさを覚えるくらいに」
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