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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい3

***  いろいろやらかした諸事情により、俺がこの世から消失する日、ベニーが先に学校の屋上に到着していた。複雑な心境を抱えながら、見慣れた細い背中に思いきって声をかける。 「ベニーちゃん、おはよ!」  素早く小走りで近づいて、ベニーの髪を束ねている赤い紐を引っ張り、強引に解いてやった。自由になった白金髪がキラキラ瞬きながら、白衣の外を覆う。  振り返って俺を見つめるベニーの視線は、ぐさぐさ突き刺さるもので、その場に流れる嫌な空気を一掃しようと、手にした赤い紐をくるくる振り回してみせた。 「先輩……」  中性的で綺麗な容姿を目の当たりにして、苦しいくらいに胸が高鳴る。そのことを隠すべく、シャツの胸元を押さえながら口を開いた。 「弘泰と両想いになったんだから、いい加減にその長い髪を切れって。きっとカッコイイと思うぞ」  切ったら切ったで甘いマスクが強調されて、今以上に生徒たちにモテるかもしれない。 「事後処理は終わったのでしょうか?」  ベニーは煩わしげに長い髪を掻きあげながら、俺が強請ったことを完全無視し、いきなり核心に迫った。 「弘泰パパから、どこまで聞いたんだ?」 「なにも教えてはもらえませんでした。聞きたいことは、先輩に直接聞くように言われて」 「チッ、頭の固いヤツ。言伝を頼んだのに」  俺は面白くなさそうに眉根を寄せてベニーの隣に並び、注がれる視線をやり過ごすように、柵の外を眺める。 「どういった言伝ですか?」  いつもより声色の固いベニーの様子で、余計に顔が見られなくなった。 「俺がいなくなる代わりに、弘泰パパがベニーちゃんの見守り人を請け負うことになった。どうせ両想いになったんだから、一緒に見守ってもらってもかまわないだろ」  前を見据えたまま告げると、ベニーは間髪入れずに問いかける。 「私の監視を辞めて、先輩はどこに行くというのです?」 「…………」  手にしたベニーの赤い紐を強く握りしめて、胸に秘めた想いをなんとか隠した。 (――このタイミングで告げたら、コイツを確実に困らせる。それだけは絶対に阻止しなければ!)  奥歯を噛み締めて、だんまりを決め込む俺の肩をベニーは掴み、自分を見るように強引に向けながら語りかける。 「ここまで一緒に、頑張ってやってきたじゃないですか! 私は必ず弘泰と添い遂げます。間接的に人を殺めてしまったから、困難はつきまとうでしょう。それでも私は――」  絶対に顔を見ることができない――見てしまったら最後、自分の想いを告げてしまう。  それを避けるべく、目の前の視線をあさっての方向ばかりに彷徨わせた。 「悪い。ベニーちゃんの幸せな姿、見届けることができない」 「理由を教えてください。このままでは納得できません!」  ベニーは苛立ちを含んだ声で叫びながら、掴んでいる俺の肩を揺すって、何度も教えてくれと懇願する。

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