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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい9

「確かに。保健医をしているベニーに診てもらったほうが、確実ですよね」 「実際、動物は専門外ですけど」  ふたつの大きな手に載せられるのがどうにも怖くて、自身の手足を激し動かし、髪色の綺麗な人間に渡らないように、必死になって足掻いてみせた。 「ベニー、引っ掻かれないように気をつけてください」 「ええ。随分とやんちゃみたいですし……」  暴れる俺の動きに怯まなかったのか、簡単に髪色の綺麗な人間の手に渡ってしまう。目に見えない不安が瞬間的に体の中を駆け巡り、思わず目の前にある指に噛みついてしまった。 「ベニー!」  噛みついたのだが、白黒ぶちの猫の足を噛んだときのように、思いきり噛むことができない。俺を気遣ってるのか抱きあげる人間の手の力が優しくて、抵抗はおろか牙を立てて噛む力も奪われる。 「私は大丈夫です。噛まれている間に、チェックしちゃいます」  噛むのをやめない俺を尻目に、まじまじとあちこちを診られてしまった。 「外傷は見当たりませんが、感染症など目に見えないチェックは、獣医さんにおまかせしなければなりません。このコ、弘泰が飼いますか?」 「飼いたいんだけど、母さんが猫アレルギーなんだ。クラスメートに声をかけようかと思ってる」 「でしたら、私が飼いましょう」 「ベニーが? いいんですか?」 (なんだかよくわからない間に、髪色の綺麗な人間が、俺を飼うことになってしまった……) 「これもなにかの縁。それにこのコ、私の知り合いにそっくりなんです。懐かしさを覚えるくらいに」  髪色の綺麗な人間は俺の頭を撫でてから、噛んでいた指を抜き取った。離れていく指先はそのまま頭上に移動し、綺麗な長い髪を露にする。いい匂いと目の前に現れた長い髪に目を奪われているうちに、なにかが首に巻かれた。 「これでよし」 「すごく似合ってますね、名前はなんにするんですか?」  朱い髪の人間が、俺の顔を見ながら隣に問いかけた。注がれるふたつの視線を感じつつ、首に巻かれたものが気になって、後ろ足で掻いてみる。 「身体に触れられないように目の前で暴れたり、私の手を噛んで困らせるところを考慮して、先輩と呼ぶことにします」  首元を掻いたせいでふらついた俺のオデコを、髪色の綺麗な人間は人差し指で突っついた。突如現れたその指が邪魔くさくて、退けろという意思表示をすべく舐めてやった。

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