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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて34

「叔父さん、僕の演奏は聞くに堪えないものなんですか?」  隣で頭を抱える叔父さんに、思いきって問いかけた。 「聞くに堪えないなんて、とんでもない。その逆だよ」 「逆って――」 「うん。兄さんの血をちゃんと受け継いでると言えば、伝わるだろうか? 演奏の質が似ているんだ」  抱えていた頭をあげて、僕の顔をしっかり見ながら伝えてくれた。 「お父さんの血?」 「俺としては、兄さんの演奏よりも聖哉の演奏のほうが、耳障りがよく聞こえる気がするけどな。正直なところ、これは好みの問題になっちゃうんだけど」  叔父さんは嬉しそうに言って、僕の頭をガシガシ撫でる。 「聖哉、よく頑張ったな。突然才能が開花した感じだぞ!」 「そう言われても、僕はいつもと変わらず弾いてるのに」  注がれる視線に照れてしまい、首をもたげて顔を俯かせた。膝の上に置いてる両手を見つめる。 「ピアノの音に、艶やかさとダイナミックさが加わったみたいな感じなんだ。今までの機械的な感じがなくなって、表現力が爆上がりしてる」 「叔父さん……」  滅多に褒められることがないせいで、どんな顔していいのかわからない。嬉しさを隠すように、両手に拳を作る。 「この演奏が当日できるなら、確実に入賞することができる。聖哉、目指すんだろう?」 「僕、ちゃんとできるかな……」  拳を作った手に、叔父さんの手が重ねられた。 「今までの頑張りが無駄じゃなかったことを、さっきの演奏をやってのけて、証明して見せろ。おまえならできる、今までバカにしてきた奴らを見返してやれ!」  そうして気合いの入りまくった叔父さんの指導のもと、僕は一生懸命譜面と向き合い、熱のこもった練習をしたのだった。  そんな練習のあとだからすごく疲れているのに、熱暴走した頭を冷やしたくて、お店に来てしまった感じだった。そして今日ここに来た、もうひとつの理由――。 (石崎さんに、練習で言われたことを伝えたい。褒められたことを聞いたら、どんな顔をするのか見てみたい)  ピアノを演奏しながら、早く閉店にならないかなと心待ちにしてしまうなんて、前の僕には考えつかないことだった。

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