328 / 332
シェイクのリズムに恋の音色を奏でて34
「叔父さん、僕の演奏は聞くに堪えないものなんですか?」
隣で頭を抱える叔父さんに、思いきって問いかけた。
「聞くに堪えないなんて、とんでもない。その逆だよ」
「逆って――」
「うん。兄さんの血をちゃんと受け継いでると言えば、伝わるだろうか? 演奏の質が似ているんだ」
抱えていた頭をあげて、僕の顔をしっかり見ながら伝えてくれた。
「お父さんの血?」
「俺としては、兄さんの演奏よりも聖哉の演奏のほうが、耳障りがよく聞こえる気がするけどな。正直なところ、これは好みの問題になっちゃうんだけど」
叔父さんは嬉しそうに言って、僕の頭をガシガシ撫でる。
「聖哉、よく頑張ったな。突然才能が開花した感じだぞ!」
「そう言われても、僕はいつもと変わらず弾いてるのに」
注がれる視線に照れてしまい、首をもたげて顔を俯かせた。膝の上に置いてる両手を見つめる。
「ピアノの音に、艶やかさとダイナミックさが加わったみたいな感じなんだ。今までの機械的な感じがなくなって、表現力が爆上がりしてる」
「叔父さん……」
滅多に褒められることがないせいで、どんな顔していいのかわからない。嬉しさを隠すように、両手に拳を作る。
「この演奏が当日できるなら、確実に入賞することができる。聖哉、目指すんだろう?」
「僕、ちゃんとできるかな……」
拳を作った手に、叔父さんの手が重ねられた。
「今までの頑張りが無駄じゃなかったことを、さっきの演奏をやってのけて、証明して見せろ。おまえならできる、今までバカにしてきた奴らを見返してやれ!」
そうして気合いの入りまくった叔父さんの指導のもと、僕は一生懸命譜面と向き合い、熱のこもった練習をしたのだった。
そんな練習のあとだからすごく疲れているのに、熱暴走した頭を冷やしたくて、お店に来てしまった感じだった。そして今日ここに来た、もうひとつの理由――。
(石崎さんに、練習で言われたことを伝えたい。褒められたことを聞いたら、どんな顔をするのか見てみたい)
ピアノを演奏しながら、早く閉店にならないかなと心待ちにしてしまうなんて、前の僕には考えつかないことだった。
ともだちにシェアしよう!