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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて35

***  お店が閉店時間になり、ふたりで締めの作業に勤しむ。僕は箒を使って、フロアの掃除をしていた。  ピアノの音のない空間――しんと静まり返った店内での作業は、石崎さんと離れているせいで寂しさが拭えない。彼がなにをしているのかと、行動を耳で逐一捉えようとしてしまう。  傍にいなければ聞こえないであろう、呼吸音を聞いてしまう勢いで集中した。 「どうした聖哉? 浮かない顔してる」  カウンターでお金の計算をしてる石崎さんが、いきなり僕に声をかけた。 「や、えっと……あのぅ」 「コンテストの練習で疲れてるだろう? 今日はもう帰っていいぞ」 「嫌です!」  顔をしっかりあげて即答した僕に、石崎さんはあからさまに驚いた表情で見つめ返す。 「聖哉?」 「僕の話を……いっ、石崎さんに聞いてほしくて、今日来たんです、っ」  箒の長い棒を意味なく抱きしめながら、たどたどしく話しかけたら、カウンターから石崎さんがわざわざ出て来てくれた。 「聖哉の話って、長くなる感じ?」  言いながら、僕の肩を抱き寄せる。すぐ傍にあるぬくもりを感じるだけで、心が妙に落ち着かない。 「長くなるかも、です……」  ドキドキを隠して答えたら、口角のあがった唇がこめかみに押し当てられた。その瞬間、落ち着かなかった心がぶわっと波立って、頬が熱くなる。 「だったら聖哉の家で、話を聞いていい?」  耳元で囁かれるセリフに、黙ったまま首を縦に振った。 「店に来てまで喋りたかったとは。話、すぐに聞いてやれなくて悪かった」  僕の頭を撫でてから、音もなく目の前を去っていく石崎さんの背中に、思わず抱きついてしまった。 「えっ?」 「わっ、なんで僕っ!」  無意識な自分の行動に慌てて飛び退くと、石崎さんの両腕が僕の躰に絡みつく。苦しさを感じる強さで抱きしめられて、胸が痛いくらいに軋んだ。 「参ったな。聖哉がこんなに甘え上手なんて」 「ごっ、ごめんなさい。締めの仕事をしてるのに、あの、こんなことしてたら、帰れなくなってしまう」  石崎さんの腕の中で身動ぎしながら、目の前にある胸を押しても、全然ビクともしない。 「俺を求めてくれて嬉しい」  耳元で甘やかに囁かれたセリフは、抵抗する僕の腕の力を削ぐもので。 「求めるなんて、その――」 「気にしてなかったら、抱きつくなんてことをしないだろう?」 「気にする……」  恐るおそる顔をあげた僕の視界に、優しくほほ笑む石崎さんの顔が映し出されて、またまた心臓が一気に駆け出す。 「顔を赤くしながら、物欲しそうに見つめられたら、抱きしめずにはいられない」  そう言うなり、唇が押しつけられた。 「ンンっ!」  強引に割入れられた石崎さんの舌が、僕の舌に絡みつきいやおうなしに感じさせる。簡単に息が乱れてしまい、喘ぐように呼吸する僕を見ているのに、石崎さんはキスをやめようとはしなかった。

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