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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて36
「ふっ…あっ!」
鼻にかかる僕の声を聞いた途端に、躰に絡みついた両腕に外された。
「悪い……。嬉しくて、ついな」
「もっ元はと言えば、僕が抱きついてしまったのが原因ですので、石崎さんは謝らなくていいと思います」
真っ赤な顔を見られたくなかった僕は、俯いたまま、まくしたてるように返事をした。
「聖哉……俺のこと好き?」
石崎さんが告げた『好き』というセリフが、なぜだか耳にこびりつく。頭の中でそれがリフレインして、ますます頬が赤くなるのがわかった。
(なっ、なにこれ。心が揺さぶられるこの感じ。もしかして僕は――)
「はわわわっ!」
「聖哉?」
目の間にいる石崎さんが僕の顔を覗き込もうとしたので、慌てて顔を掴んで僕から視線を逸らそうと試みる。
「見ないでくださいっ!」
「俺は見たいんだけどな」
「ダメです、絶対に変な顔してるから!」
「変じゃない。俺は好きだよ」
石崎さんは顔を掴んでいる僕の両手を引っ張って外し、掬い上げるように唇を重ねた。一瞬でキスは終わって、顔のすぐ傍で石崎さんが固まる。視線は僕の顔に釘付けだった。
「こんな至近距離で見つめないでください」
「その顔、ほかのヤツに見せないでくれ」
「へっ?」
「普段、冷静な顔でピアノを弾いてるときと全然違うんだ。ギャップ萌えって感じで、手を出したくて堪らなくなる」
掠れた声が耳に届いたときには、ふたたび石崎さんの唇は僕の唇に重なった。いつもより帰りが遅くなってしまったのは、必然だったのかもしれない――。
☆☆☆
いつもより帰りが遅くなってしまったせいか、ストーカーの気配もなく、無事にマンションに到着。話もそこそこに、石崎さんとは別々にシャワーを浴びる。
お互い人心地ついたところで、寝室のベッドに腰かけた僕から、唐突に話を切り出した。
「今日、コンテストのレッスンで叔父さんの家に行って、いつもどおりにピアノを弾いたんです」
僕の話を目の前で聞いていた石崎さん。ふわりと笑って僕の隣に腰かける。ぴったり寄り添うように座った石崎さんから伝わってくる心地いい熱が、僕をほっとさせた。
水のペットボトルを手にした彼が、それを一口だけ飲んで喉を潤し、「聖哉の叔父さんか……」と小さな声で呟く。
「父の弟にあたる人なんです。僕の親戚は、音楽関係ばかり職業にしている人が多くて」
「お父さんの弟だから、同じピアニストというわけなんだな」
「はい、兄弟そろってすごいですよね」
オレンジジュースの入ったコップを一気飲みして、大きなため息を吐いた。
「その叔父さんに、聖哉はなにか言われたんだ?」
僕が言う前に、クイズを当てるような軽い感じで訊ねた石崎さん。答えようとしたのに、なぜか頬にキスをする。
「ちょっ、そんなことされたら答えられないじゃないですか」
「ごめんごめん。聖哉の顔を見ていたら、なんかしたくなって。続きをどうぞ!」
石崎さんは苦笑いしてその場をごまかしたものの、僕としてはキスされたことは嫌じゃなかったので、何事もなかったかのように言の葉を告げる。
「あのですね、叔父さんに『才能が開花した』って言われたんです」
「才能が開花した? 今頃それに気づくとか遅いだろ」
「へっ?」
唖然とした表情で、石崎さんは僕の顔を見る。
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