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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて36
「聖哉の演奏をはじめて聞いたときに、才能があることがわかったけどな」
(そういえば石崎さんは、コンテストに落ちて荒れていた僕の演奏を聞いて、お店で弾いてみないかって誘ってくれたんだった)
出逢ったときのことを思い出し、目を瞬かせる僕を見ながら、石崎さんは喋り続ける。
「俺はどがつくほどの素人だし、耳の肥えた音楽家と聞こえてる部分が違うのかもしれないが、聖哉の演奏は耳の奥に残るメロディの余韻が印象的だと思ったんだ」
「メロディの余韻?」
不思議顔で訊ねると、石崎さんは持っていたペットボトルを床に置き、僕の肩を抱き寄せた。
「まったく知らない曲なのに、耳の奥に残る感じというか余韻というか。んー、なんて表現をしたら、聖哉にそれが伝わるんだろう?」
困った口調で訊ねると、なぜか僕の唇に触れるだけのキスをする。すぐに離れていく顔を見つめたら、困った表情で首を傾げた。
「本当に難しいな。想いと同じで、音も目に見えないものだろ。それを言葉で表現できないのが、ものすごくもどかしい」
そう言って、ふたたび僕にキスをした。
「石崎さん、さっきからなんですか」
「智之っ!」
石崎さんは、名前をいきなり口に出した。
「えっ? なん?」
「聖哉に名前をそろそろ呼んでほしいなぁと、思っちゃダメか?」
「うっ……」
抱き寄せてる僕の躰を少しだけ揺さぶりながら、無理なおねだりをされてしまって、ものすごく困惑する。恥ずかしさのあまりに俯いて、顔を見えないようにした僕を、石崎さんはどんな顔で眺めているのやら。
「大好きな聖哉に、名前で呼ばれたい。智之、好きだよって」
(名前を呼ぶだけでもドキドキするのに、それに告白をまじえるとか、絶対に無理!)
「ぁあっ、あの……えっと呼び捨てはちょっと。僕は年下ですし、石崎さんは店のオーナーで偉い人だから」
ほかにも理由をつけて、両手を意味なく握りしめた。こんなことをして落ち着こうとしても、胸が痛いくらいに高鳴ってしまい、余計に口にすることができない。
「聖哉、オーナーの命令は、きちんときかなきゃダメだろ?」
口角のあがった唇がふたたび押しつけられて、早く言えと催促した。
「ううっ、と、智之…さんっ」
「なんだ?」
ちょっとだけ顔をあげて、石崎さんを眺める。どこか嬉しそうに瞳を細めながら、見つめ返されてしまった。
「智之さんが、すっ、好きです」
告げた瞬間、ぶわっと頬に熱をもったのがわかった。顔の全部が熱くて、どうにかなってしまいそう。
「俺のどこが好き?」
「へっ?」
「俺が好きなんだろ? どこら辺が好きなのかなぁと思ったんだけど?」
「ドッ、どこが、好きとかなんて」
「俺のココ?」
肩を掴んでいた手が、僕の利き手を素早くぎゅっと握りしめ、石崎さんの下半身に近づけた時点で、その力に慌てて抗った。
「ちがっ、違います~!」
「俺は聖哉のココも好きだよ。しゃぶるとビクビク感じて、汁がたくさん出るところとか」
「やめ、そんなこと、言われたら恥ずかしぃ」
「聖哉が俺の好きなところを言わないから、俺が無駄に披露してるんだけど? 言わないと、もっと卑猥なコトを言うかもしれない」
なんていう、信じられない脅しをかけられてしまった。
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