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第36話 お前のだから欲しい。(独歩目線)

「観音坂さんの首筋にあるのは、キスマークかな?」 取引先の営業に出向いた会社でもことだった。 急に首筋を指されて、俺はハッとした。 この間、一二三がうなされていたときにセックスしたキスマークだろう。 もううっすらしか跡はのこっていないから、絆創膏をはずしていたが、この取引先のお偉いさんに見付かった。 よりにももってこんなときに……。 一二三のせいで俺はこんな羞恥を感じていた。 「あの……これは、虫に刺されたらしく……」 「ワイシャツの襟見えるか見えないかのところを刺すなんて、随分器用な虫なんだね」 なんて言い返すか。 ラップバトルなら遠慮なく言い返せるが、ここは仕事の場だ。 沈黙が数秒経って、相手が言葉を発した。 「虫に刺されたんじゃなくて、虫除けかもしれないと思ったんだけど」 とてもじゃないが、一二三がそんなこと考えてるとも思えない。 いや……、セックスの最中の『あの表情』の一二三ならあり得るかもしれない。 「観音坂さん、私の好みの顔立ちなんですよね。この仕事の件は貴方の身体で手を打つのはどうですか」 「は?!」 俺が枕営業?! ……ありえないありえないありえない。 「私に抱かれてくれるなら、この取引続けても良いですよ」 俺が一二三以外の男に抱かれる? 考えてもみなかったことだ。 でも……この身一つで成績が上がるなら安いものかもしれない。 「どうですか?悪いお話でもないかと思いますが」 この誘いに俺は軽く頷いてしまった。 こんなたいしたことのない俺の身体で取引が成立するなら。 自分の仕事として貢献出来たなら。 だけど……、抱かれてみて後悔するなんて思ってもみなかったことになることを、俺は考えもつかないでいた。

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