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第37話

ホテルは何故かスイートルームを取られて俺は面食らった。 「観音坂さんはシャワーはセックスの後に入って。そのままの君を貴方を味わいたい」 早速強い腕で腰を回されて、流石の俺でも躊躇した。 ……キスがくると理解したからだ。 俺はキスが嫌で身体を引いたが、力の差は歴然でいともあっさり唇を奪われた。 「キスは嫌いかな」 一二三以外とは嫌だとは流石に言えず、 「慣れて……ません」 「その年でウブなんだ?」 「……経験はあまりないです」 「首筋にキスマークがあるのに?」 随分としつこい質問だった。 それでも誤魔化すしか出来ない。 「服は自分の意思で脱いで欲しいかな?これはお互いの合意のもとで始まる行為だと感じたいからね」 一二三なら絶対に言わない言葉をこの男言葉にした。 それが今まさに俺は一二三以外の男とセックスをするんだと改めて実感させられた。 脱ぐのに躊躇っていた俺は、相手にワイシャツの前を引き千切られた。 ブチッと音と共に、ボタンが床に転がっていった。 「観音坂さん、これ以上は優しくしたいんだけど?」 「……」 承諾したのは俺、悪いのは俺、ゆっくり……下着以外の衣服を脱いだ。 相手も服を脱いで下着だけになり、ベッドへ寝転んでいた。 「肌の色白いね。腰も細いし……私が先に反応しそうだよ」 「……」 こんなとき、どう言葉を返したらいいのか分からないので無言で俯いた。 「おや、背中にもキスマークがある。やはり君は愛されてるね」 愛されてる? 俺が? まさか……いや、そうなのかもしれない。 一二三に愛されたいと思う自分と、一二三に愛される資格なんて俺にはないという気持ちが入り乱れて目が眩んだ。 と、同時に一二三に愛されたいと願うのに、何故この男に俺は抱かれるのだと疑問を持った。 軽い気持ちで承諾した自分がキライなった。 自分がキライでないときなんてないが。 そう思うのに……好きな奴には好かれたいと思ってしまう浅はかな自分が恨めしく思う。 「おいでよ、観音坂さん。今だけは恋人のことは忘れよう」 おいで、なんて男に使う言葉か? そもそもなんで俺が枕営業なんて……瞬間耳を舐められてゾクリと鳥肌が立った。 「あぁっ……ン」 鳥肌がだけじゃなくて身体に快感すらも走っていた。 どうやら思っていた以上に、俺は一二三に淫乱な身体に開発されていたらしい。 自分で嫌になる。 一二三が好きな自分と、悪酔いしてる日に一二三が俺を抱く行為に慣れている自分と、その次の日忘れたフリをして誤魔化す自分。 そして仕事のために一二三と違う男を受け入れようとしている自分。 自分が……俺がキライでキライで死んでしまいたくなった。 相手は俺の首筋にキスマークを付けた。 場所は一二三と同じところ。 わざとだ。 一二三を挑発したいのか。 それでも俺が抗うことはできない理由は、快感で息が上がっていたからだった。 一二三とはもう何度セックスをしたか分からない数を交わしてきた。 俺の悦いところを知り尽くしているところにキスマークが付いているのだから、相手が同じところを攻めている以上は仕方のないこと。 「いゃ……っやめて、くれ。ンぅ」 「君の彼氏はキミの身体を知り尽くしているね。もうパンツがビチャビチャだ」 ……気付かなかった。 俺がこんなに下着を濡らしているのに。 一二三は服を脱がせてくれる。 下着まで脱がせてくれる。 自分がこんなに『濡れる男』『感じる男』だということに羞恥を感じた。 それは本当に俺が『快楽に弱い男』だと言われているようで、惨めな気分になった。 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ……こんな自分が更にキライになった。 「あの、この取引を無かったことに……出来ませんか?」 すると今まで優しくしていた相手は、俺の下着をおろして、ぺニスの根元をキツく握ってきた。 「ひあっ!!」 「私とここまでしておいて、逃れられると思ってるのかな?」 枕元に置かれてあったネクタイで簡単に腕を拘束された俺は、本当に捕らえられた獲物だった。 「さて。酷いことされたくなかったら、観音坂さんは自分の意思で脚を開いて、菊の花を見せて」 『菊の花』とは尻の穴……アナルのことだ。 前に医療用器具の営業で専門的知識を身に付けようと、昔の身体の部位の名称を調べたことがあった。 女は『蘭の花』、男は『菊の花』と出てきて、昔から『同性愛』という文化は日本にもあったんだなと変な勉強をした。 まさかそんな専門用語をここで聞いて、理解出来る自分がいることに恥じた。 自分からアナルを見せることなんて、一二三相手にもしたことがない。 ならする必要なんて俺は無いような気がした。 「酷いこと、したくなかったけど……これは取引だから。仕事に貢献しなくちゃだよ」 俺のアナルに相手のぺニスを容赦なく挿入れられた。 「ひっ……」 挿入れられた瞬間、鋭い痛みで腰が引きそうになった。 が、相手の両手が俺の足腰を支えているせいで、引くことは出来なかった。 「観音坂さん痛いとでも言いたいかな?でもマラは反応してるから説得力はないね」 こんな状況でも、相手が一二三じゃなくても反応してる俺の身体はどうかしてる……!! 一二三のぺニスに慣れているはずで、それなのに違う人間のぺニスが俺のアナルの中に挿入ってるのが分かると怖くなったのと同時に背徳感と罪悪感に駆られた。 せめてこの相手とセックスを早く終わらせる為に、俺は抗うのを諦めた。 「観音坂さんは諦めが早いね。切り換えが早いというよりも逃げたいだけなのを、私は理解してるよ」 「っ……」 図星を衝かれてまた辛くなった。 どうして俺はいつもこうなんだ。 良かれと思ってしたことがいつも裏目に出る。 「っぅあ、ン。あっ……あっあぁ」 「観音坂さんっ、気持ちがいいね。最高だよ、君のアナルは名器だ!!」 排泄する為の器官が『名器』とは我ながら笑える。 良いところのない短所ばかりの俺が、アナルの締まりが良いなんて、笑えて笑えて仕方がなかった。 「あぁンっ、ははは……っ」 「ん、楽しくなってきたかい?でも私はもうイくよ。たっぷりザーメンをお花に注いであげる」 どうしようもない俺は、この相手の精液をアナルの奥に感じて絶頂を迎えた。

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