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第4話

 とはいえ延々と嬲りたおされても「平気の平左だ」と言えば、嘘になります。  木馬に乗せられましたころは、西の空が赤々と燃えておりました。今は暮れ方の群青色が、徐々にその領土を広げていくなか、一番星がまたたきます。  鏡を見やり、旦那さまのご様子をそっと窺います。ひと言、ふたこと声をかけてくださるどころか、知らんぷりなさっておいでです。   しんしんと夜が更けてゆきましても、一顧だになさらずに、このまま捨て置くおつもりなのでしょうか。  もしや……張り形ごときを相手に腰を揺すり立ててしまう節操のなさに内心、呆れていらっしゃるのでしょうか。  旦那さまに、すげなくされたら。そう思うと目の前が真っ暗になり、茎も、しゅんとなるようです。  ところで、ご兄弟は黒檀の卓子(テーブル)を挟んで向かい合い、昨今のきな臭い世界情勢を俎上に載せて議論を戦わせていらっしゃいます。  あるいは朋貴さまの遊学中のこぼれ話を肴に、葡萄酒(ぶどうしゅ)を酌み交わしたりもいたします。  と、朋貴さまと鏡面の上で視線がからみました。乾杯、といいたげに洋杯(グラス)を掲げ、いちどは澄まし返られました朋貴さまでしたが、とめどなく随喜の涙をこぼしつづける茎に目を留めますと、生唾をごくり。  咳払いひとつ、真顔になりますと、こちらに顎をしゃくるのです。 「掌中の珠的なお側仕えの恥丘がつるつるなのは、兄さまの仕業なのかい?」  半人前、と遠回しにお叱りを受けたように感じて身がすくみます。  口髭を調えてさしあげるさいに剃刀(カミソリ)がすべった、馬蹄や庭師に馴れ馴れしくしすぎた……等々。  粗相をして、それが旦那さまの逆鱗に触れますと、和毛(にこげ)を一本残らず剃りあげられてしまう習わしなのです。  剃毛の儀式は、だいたい一週間に一度の頻度で行われます。それゆえ生えそろう暇がありません。  とろとろと茎を伝い落ちました蜜は、下生えに流れを堰き止められることなく谷間を潤し、蕾に流れ着いて襞々にしみ込むのです。  旦那さまの教育の賜物です。  ここ一年あまりで、めっきり濡れやすい性質(たち)になりました。旦那さまに契っていただくには、本来はすべりをよくするために秘伝の油を菊座に塗り込める必要があるのです。ところが近ごろでは、自然とあふれる蜜で用が足りるほどです。  今も、そうです。後から後からしみ出してくる青臭いおつゆが、谷間をぬらつかせます。  張り形が深みをえぐっていきますたびに陰門がぐちゅぐちゅと高らかにさざめき、その淫靡な水音が潮騒のように鳴り渡るのです。    話が前後しますが、旦那さまは丈の短い上着と、太腿の部分がだぶついた洋袴からなる乗馬用のひとそろいをお召しです。  対する朋貴さまは、結城紬を粋に着流した渋好みの装いです。ふと思いついたふうに(たもと)をまさぐりますと、何か光るものを取り出し、卓子にそれを載せました。

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