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第8話

    Lesson2 旦那さま流の〝座学〟の数々  夕闇が迫り、洋燈(ランプ)が灯されます。  暖炉や安楽椅子といった家具調度の影が、おどろおどろしく壁を染め分けるなか、朋貴さまが木馬の後ろに回り込まれた気配がいたします。  どきどきいたしますとともに、もぞもぞと腰が蠢くのです。  さて朋貴さまは、といえば陰門をしげしげと見つめておられるご様子。双丘の狭間に無遠慮に突き刺さる視線が……面映ぅございます。 「ちっちゃな孔に鋲が埋め込まれたグロテスクな玩具を銜え込んで。いじらしいことだね、兄さまがお側仕え風情に執心するのも、うなずける話だよ」  そうなのです。外国(とつくに)の名工が、さぞかし腕をふるいましたのでしょう。大小さまざまのイボイボが、張り形の表面にちりばめられているのです。 「この子は素直で物覚えがいい。いろいろと教え甲斐がある」 「『いろいろ』──ね。尋常小学校に通っていたころは神童と謳われ、長じてのちは今上陛下のおぼえめでたき兄さまだけあって、含蓄に富んだ言い方だなあ」    ご兄弟は、共犯者の笑みを交わされます。  ご幼少のみぎりに朋貴さまに乗馬の手ほどきをなされましたのは、旦那さまだと伺っております。幾星霜を重ねて、このたびは、お側仕えを躾けるさいの秘訣を伝授なさりたい、という心境にあるのでしょうか。旦那さまは半歩退き、朋貴さまに場所を譲ります。 「愛くるしい(かんばせ)に似げないことに、このお側仕えは根っからの好き者らしいね。たくさん、おもらしして悪い子だ」    股ぐらに、手が伸びてまいります。朋貴さまは、無造作に穂先をひと弾きなさいます。 「んー……っ!」 「まいったな、指がぬるぬるだ。お側仕えはお側仕えらしく舐めて清めるんだ……ああ、でも、猿ぐつわが邪魔だな」 「そろそろ外してやろう。しずは、無駄口をたたくことがあれば承知しない。よいな」    こくり、と頷きますと、はらり、と猿ぐつわがほどかれて絨毯に舞い落ちます。  口に詰め込まれておりました手巾はもとより、ねじり鉢巻き状に上唇と下唇の間に(さしはさ)まれました手ぬぐいも唾液をたっぷり吸って、ぐっしょりと濡れています。  朋貴さまは深窓のご令息。  対するこちらは、下賤(げせん)の身。  お側仕えごときの唾でどろどろに汚れたものなど本来、目にするのも厭わしいはずです。 ところが、どういった気まぐれを起こされたのでしょうか。  朋貴さまは、これ見よがしに手巾を口に含まれます。しかも乳飲み子のように、ちゅうちゅうと吸い立てます。  ひとしきり、お戯れになったあとで鹿爪らしげに腕組みをなさいます。

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