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第9話

「接吻して甘露の味わいがするシロップをじかに堪能したいところだけど、兄さまが怒ると怖いからな。唇を相伴になるのはあきらめる代わりに、下の口をいじらせてほしいね」    旦那さまは、木馬の脚を鞭でひと打ちなさいました。思案顔になって、中指で眉間を揉まれます。  恐れ多いことに、この身を屋敷の奥深くに閉じ込めて永遠に独り占めにしたいと常々、おっしゃってくださる旦那さま。  けれど最愛の弟君にせがまれましたら、話は別なのでしょうか。ひと呼吸おいて、苦笑を浮かべられました。 「張り形一辺倒では、しずはも飽きがくるだろう。指を二本ばかり挿れて、目先を変えてやるといい」  あっ、そんな……ご無体なおっしゃりよう。  鞘は張り形でぎちぎちですのに、指はおろか、楊枝ですら挿るわけがありません。  もっとも、お言いつけは絶対です。旦那さまのお手を煩わせます前に、そこにすがりつく形に木馬の首におでこをあずけます。花芯をまさぐっていただきやすいふうに、前にのめって体勢を整えます。  その間も、木馬はゆらりゆらりと揺れつづけます。  張り形が時計回りに襞を巻きとっていくたびに、もどかしさと甘やかさが渾然一体となった疼きをかき立てて、蜜をあふれさせるのです。  茎に留まらず蜜の袋も蕾も内腿も、何もかも、ぐちょぐちょの、べちょべちょです。  折も折、手入れの行き届きました指が口許に突きつけられました。  舐めて濡らしてさしあげますのが条理というものですが、朋貴さまにかしずきますことは畢竟(ひっきょう)、旦那さまを裏切ることになりますようで、ためらわれます。  お側仕えの分際で不遜の極みではありますけれど、旦那さま以外の方にさわられると考えただけで身の毛がよだちます。  ですけれど……ですけれど。  この場合は弟君の指をねぶってさしあげますことが、ひいては旦那さまに間接的にお仕えすることになるのでしょうか?  お側仕えの一存では決めかねます。目顔でお伺いを立ててみますと、旦那さまは鷹揚にうなずかれます。  かしこまりました。ずぷり、と口中に突き入れられた指に吸いつきます。れろれろと、とっぷりと唾液をからめます。  朋貴さまは十二分に湿り気を帯びた中指を秘孔にあてがわれ、男に二言(にごん)はないね、と念を押すように、いちど旦那さまをご覧になります。  存分にやれ。そう、おっしゃりたげに旦那さまが首肯なさった直後……。 「っ、ん、んんん……っ!」  つぷり、と指先が壷に沈みました。反射的に上体が弓なりに反って、必要以上に入口をすぼめてしまうのです。 「力めば、なお苦しい。わたしがおまえを愛おしむときのことを思い出して、大きく息を吸って吐きなさい」  助言をたまわりまして、ありがたいことです。早速、よぶんな力を抜くように相努めましたものの、張り形に蹂躙されておりますところに指まで飲み込むのは、やはりきつい、きついのです。

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