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第13話

    Lesson3 舌くらべのこと  不安と期待が交錯しますなか、両の足を木馬の胴体に縛りつけます細引きが切り落とされました。  無情にも……いいえ、旦那さまは慈悲深いことに手ずからこの身を抱き上げて木馬から下ろしてくださいます。  ぬらり、ねちょり、ずちゅり……。  象牙と、牛酪(バター)のように蕩けた粘膜が和して奏でる音を響かせながら張り形が姿を現わすにしたがって、濃厚な香りが立ちのぼります。  ほかほかと湯気が立っているような張り形がいよいよ抜き取られるさいには、ぬぽん、などという間の抜けた音がこだまいたしまして失笑を買ったのです。  なんという体たらくでありましょう。身の置き所がありません。  そのうえ長々と銜えつづけておりましたために、いまだに杭を打ち込まれている気が、蕾がすぼまりきらない気がいたします。きっと花芯はぽっかりと口をあけて、真っ赤にただれた内側をさらしているに違いありません。 「口淋しいだろう。栓をしておいてやろう」  旦那さまは神経が濃やかな方です。最奥が切なく疼くさまを見て取りますと、デカンタという口細で、色硝子でできた壜を素早くねじ込んでくださいます。  菱形を綾なす模様が、薩摩切子のそれの全面にほどこされています。  凹凸(でこぼこ)がくだんの種子にいい按配に当たって……膝ががくがくして、へたり込んでしまいました。  木馬にすがって膝立ちになったものの、ずるり、と壜が……あっ、あぁ……壜の注ぎ口が襞に引っかかりながら引っかかりながら落下していきます。  咄嗟に入口をつぼめて壜を中に留め置きます。それから、苦肉の策とでも申しましょうか。 絨毯にうつ伏せ、腰を掲げ気味にいたします。  右の肩を絨毯につけまして、おのれの目方を支えます。なりふりかまわないにも程がありますけれど、壜を落とさぬようにぷりぷりと尻たぶを左右に振り立てながら、長椅子めざして這い進みます。  ともあれ座面と向かい合います位置にたどり着きましたところで、ちんまりと正座に膝をたたみます。それを機に、ひらり、とアスコットタイで目許が覆われます。  両の(かいな)は、いまだに後ろ手にがんじがらめにされております。ともすれば上体がぐらつきますが(あた)うかぎり背筋を伸ばして、おふたりの支度が整うのを待ちます。  そうそう、うっかりしておりました。壜が抜け落ちてしまわぬように、かかとでしっかりと押さえておくのを忘れてはいけません。  かように、えげつない下半身のありさまに対して、上衣はいまだに衿元ひとつゆるめておりません。  そのような見苦しい恰好で旦那さまの居室をうろちょろするなど、本来であれば万死に値するほど罪深いことです。

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