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第17話

 勇み立ち、中腰と蹲踞(おんきょ)のあいのこのような不安定な姿勢で口淫に勤しみます。  よろめきましても、顎がだるくなりましても平気です。旦那さまが腰を摑んで下肢を支えていてくださいますので、くずおれる心配はありません。  そのかたわら……内壁を揉みたてるようにしながら、壜も押さえていてくださるのです。 「よし。裏の筋を満遍なくねぶるんだ」  と、居丈高な物言いとは裏腹に、朋貴さまは思いやりにあふれた方です。  猛りで舌を撫でてくださいます。きりきりと乳首をつねってくださいます。  ご要望にお応えしまして、螺旋を描くように幹を舐めあげてゆきますと、ほろ苦い雫がしみ出してまいります。  そうです。朋貴さまが早々に陥落に至りますれば、旦那さまがいかに優れた性教師で、薫陶よろしきを得たことを証明することになるのです。  旦那さまのイチモツを当てそこなうという大失態を演じましたぶんも、発奮せねばなりません。ここはひとつ、旦那さまがじきじきに秘伝を授けてくださいました舌技を駆使する必要があるのです。  その一心で、肉棒をねぶりたてております、さなかのことです。腰骨に添えられておりました手が突然、離れていきました。  ぐらり、と床につっぷしていく形に躰がかしぎ、咄嗟に両手を伸ばしますと、絨毯にぺたりと掌が突くではありませんか!  棋士のごとく、旦那さまは深遠な考えに基づいて行動なさる方です。今も布石を打つといった意味合いで、この腕を結わえておりました縄を密やかにほどいておしまいになったにちがいありません。  ためしに右手をぐうに握り、ぱあに開いてみます。びりびりと腕全体に痺れが走り、指先に急速に血が通いはじめたものですから、むず痒さに悩まされます。  けれど、怒張を舐めあやすに支障はありません。  両手を自由に使えるようになりましたぶんも、舌さばきに自然と熱が入ります。まずは作法に則ることにいたします。  ちなみに口淫の作法とは、こうです。まず膝立ちになりまして、雄蕊(おしべ)を捧げ持つのです。  ちゅ、ちゅっと幹をついばみ下ろしていき、根元に行き着きましたら、円柱のぐるりに舌を這わせるのを忘れてはいけません。時には草むらを手櫛(てぐし)で梳いてさしあげますのも、(おもむき)がございます。  かといって砲塔ばかりをお慰めしていては、飽いてしまわれるでしょう。もうひとつの宝物(ほうもつ)(ゆるが)せにしますようでは、片手落ちというものです。  胡桃(くるみ)を撫でころがします要領で、柔袋に護られておりますふたつの宝珠を揉み揉みしてみますと──旦那さまが殊のほか好まれますやり方です──朋貴さまの息づかいが覿面に荒くなります。 「まったく、この子の技巧達者ぶりといったらピカ一だね。三国一の近習(きんじゅ)に盲従されている兄さまが、妬ましいくらいだよ」  宝玉いじりの技は、お気に召していただけましたようです。思わず笑みこぼれてしまいましたのと相前後いたしまして、内側によどんでおりました甘苦しさが不意に消え失せました。

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