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第26話

 ちょろ……ちょろり……。  一体全体、どうしたことでしょう。普段は噴水めいて淫汁がほとばしるものですのに、なんだか様子が変なのです。  視線を落として目をしばたたきます。いまだにに堰き止められておりますように、おつゆは幾滴かあふれては糸を引くばかりなのです。  さしずめ、煮つめました飴。  粘っこい残滓が、とろとろとキリもなくしたたり落ちては、つるつるに剃りあげられました恥丘の上で虚しく泡立ちます。  その面妖なさまは、しまりのない蛇口からちょろちょろと水が垂れるところに、そっくりです。思いきり極めることができないもどかしさに、涙ぐんでしまいます。  旦那さまは絶倫の士。  こちらが敢えなく逐情を迎えましたのちも、宝刀がふやけるほどまでに、交合に励まれますのが常です。  現在(いま)も、そうです。双丘を鷲摑みに菊座を解き伸ばしておしまいになりますと、蕎麦を打ちますように深く深く、あるいは浅く浅く、ご自身の麺棒で淫肉をこねこねなさいます。 「ぅ、ん……っ! はぁ……あっ、あっ!」  淫液を噴き上げそこねましたぶんも、情欲が身内にくすぶっております。望むところと申しあげましては語弊がありますけれど、緩急自在で、なおかつ華麗な腰さばきに嬉々として応えます。  その一方で、ぎくりとするものがあります。  旦那さまひと筋なのですから、身に覚えのあろうはずもありません。  ありませんが……まさか、もしや女郎の間に蔓延します厭わしいシモの病気にかかり、そのために蜜の(くだ)に異常を来たしたというのでしょうか?  もしもそうでしたら、一大事です。  陽根が膿み果て、病毒が全身に回ったあげく鼻がもげてしまうという恐ろしい(やまい)を旦那さまに感染(うつ)してしまいます。  蒼ざめ、躰を強ばらせますと、旦那さまは苦笑いを浮かべます。 「おまえが辛抱強いのをよいことに、我慢させすぎたとみえる。うまく達けなかったのは、再三にわたって時機を逸したせいだな」 「啼かせるのが閨房の醍醐味という意見には、大いに賛成だね。それはそれとして兄さま曰く〝乗馬のレッスン〟は、荒療治にすぎるきらいがあるよ」  茶々を入れました朋貴さまを、ただのひと睨みで黙らせます。それから旦那さまは、イチモツを茶筅(ちゃせん)に見立てましたかのごとく、薄茶を点てますときと同様に、丁寧かつ執拗に内側をかき混ぜてくださるのです。  なかば脱げ落ちました襯衣(シャツ)は皺くちゃのくちゃで、あまつさえ、いやらしいシミがたくさんついて見る影もありません。  下女に洗濯をお願いするおりには嫌みのひとつも言われ、向こう数ヶ月にわたっていびりぬかれますこと請け合いです。  それは、さておき問題は、この身が花柳病(かりゅうびょう)に罹患しております恐れがあるということです。  そそくさと、つながりを解きにかかります。すると旦那さまは眉根をお寄せになり、(のが)さぬ、というふうに背中に腕を回してこられて、よりいっそう深々と楔を打ち込んでいらっしゃるのです。 「あぁあ、旦那さま……この身は(けが)らわしい業病に冒されております。突いてはなりません、なりません……ぁああ……っ!」 「お医者さまでも草津の湯でも恋の病は治せぬ、と俗謡にあるではないか。案ずることはない。おまえが患っているのは鷹宮公彦──すなわち〝わたし〟という存在に起因する恋の病だ。さあ、精嚢が空になるまで搾り取ってやろう」    あ、ああああ……それに照準を定めて核を、あっ、あっ、あっ、核を突いて突いて、烈々と突いてくださったら、ぴゅっぴゅと淫液がしぶいてしまいます。

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