13 / 20
Ⅲ 雨のスクリーン ①
水、飲んでくるね。
……それだけ伝えて、部屋を出た。
航雅と先輩が「だったら貰ってくる」って言ってくれたけど。
ごめん、航雅。
ごめん、先輩。
苦しい。
どうしてだろう?
あなたの目を見ていると、息ができなくなるんだ。
先輩……
あなたから逃げたくて。
クラブを飛び出した。
ぽつん……
鼻先に雨粒が音を立てる。
どこへ行くかも定まらない足を、雨が追い立てる。
視界の縁に入った電話ボックスに、駆け込んでいた。
電話台に置いた赤いリボンを見つめていると、目の奥から涙が込み上げてくる。
ひとりぼっち
胸の痛みが取れない。
一人になりたくて、ようやく一人になれたのに。
大切な何かを忘れた俺の空白を埋めるように、涙が止まらない。
どうしたって
なにをしたって
幸せになれよ、って。頭を撫でてくれた先輩の体温が今も……苦しいよ。
雨が電話ボックスのガラスを打ちつける。
雨音に紛れて嗚咽を漏らしても、誰も気づかない。
俺、ひとりぼっちになっちゃった。
……ブルルッ
突然、ポケットの中が震え出した。
慌てて取り出したスマホの着信画面が表示したのは、
『中條 馨』
先輩の名前だ。
どうしよう。
俺がいなくなったから、心配して電話を掛けてくれたんだ。
出なくちゃ……
着信ボタンに触れようとした指が震えた。
ブルッブルルッ
手の中でスマホが鳴動し続けている。
出なくちゃいけないのに。
先輩の声を聞くのが怖いんだ……
ともだちにシェアしよう!