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Ⅲ 雨のスクリーン ①

水、飲んでくるね。 ……それだけ伝えて、部屋を出た。 航雅と先輩が「だったら貰ってくる」って言ってくれたけど。 ごめん、航雅。 ごめん、先輩。 苦しい。 どうしてだろう? あなたの目を見ていると、息ができなくなるんだ。 先輩…… あなたから逃げたくて。 クラブを飛び出した。 ぽつん…… 鼻先に雨粒が音を立てる。 どこへ行くかも定まらない足を、雨が追い立てる。 視界の縁に入った電話ボックスに、駆け込んでいた。 電話台に置いた赤いリボンを見つめていると、目の奥から涙が込み上げてくる。 ひとりぼっち 胸の痛みが取れない。 一人になりたくて、ようやく一人になれたのに。 大切な何かを忘れた俺の空白を埋めるように、涙が止まらない。 どうしたって なにをしたって 幸せになれよ、って。頭を撫でてくれた先輩の体温が今も……苦しいよ。 雨が電話ボックスのガラスを打ちつける。 雨音に紛れて嗚咽を漏らしても、誰も気づかない。 俺、ひとりぼっちになっちゃった。 ……ブルルッ 突然、ポケットの中が震え出した。 慌てて取り出したスマホの着信画面が表示したのは、 『中條 馨』 先輩の名前だ。 どうしよう。 俺がいなくなったから、心配して電話を掛けてくれたんだ。 出なくちゃ…… 着信ボタンに触れようとした指が震えた。 ブルッブルルッ 手の中でスマホが鳴動し続けている。 出なくちゃいけないのに。 先輩の声を聞くのが怖いんだ……

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