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Ⅲ 雨のスクリーン③
コツコツコツ
雨がガラスを叩いている。
コツコツコツ
叩き続ける雨
雨音しか聞こえない。
俺は臆病な狼で……
声の聞こえなくなったスマホを握りしめて震えている。
電話ボックスの中で、雨音と一緒に震えている。
雨、止まないでほしい。
止んだら、ここを出なくちゃいけない。
滲む視界は雨のせいだ。
コツコツ叩く雨の音が、胸に降り積もる。
こつん、こつん
不意に大きくなった雨の音に、ビクンッ
肩が揺れた。
一瞬だけ
風が吹く。
電話ボックスの中に舞った雨音が消えて……
ガラスの外で透明なビニール傘が風に流れていった。
密室の中に、黒いマントが翻 った。
「どうして……」
黒いマントの中に抱き寄せられた。
男二人が入るには窮屈な電話ボックスで、俺は……
濡れた衣服越しに感じる、体温にすがっていた。
どうして来たんだよ、航雅……
腕の温もりが染みる。
痛く染みてくる。
ひとりぼっち、だったのに。
ひとりぼっちでいたかったのに……
ほんとうは、一人じゃいられなかった。
いけない……
お前の優しさにすがっちゃ……
お前の温もりに甘えちゃダメだ。
頭の奥で警鐘が聞こえる。けれど……
思考が痺れていく。
腕の温もりに絡めとられて。
もしも、この背中を抱きしめ返したら。
ずっと、ずぅっと、温もりの中に包まれる事ができるのだろうか。
それは『幸せ』という事だろうか。
先輩が、俺に望んでくれた幸せ……
抱きしめ返せば、幸せは先輩の幸せに繋がりますか?
ごめん、航雅
ごめん、先輩……
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