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Ⅲ 雨のスクリーン④

大切なことを忘れている俺…… 大切なことを忘れたかった俺…… 忘れているから、求めてもいいんじゃないか? 忘れたままで幸せになれるなら、その幸せに手を伸ばしたって…… 広い背中に手を伸ばす。 ここを、俺の居場所にしてほしい。 望む事は罪なのだろうか? 航雅は俺の事が好き 俺も航雅を好きになれば…… 幸せ、なんだよね? それは誰の幸せなんだろう。 俺だけの身勝手じゃないのか? 航雅はそれで幸せになれる? 「なれるよ」 形良い唇が紡いだ声の形が降ってきた。 「結羽が欲しい。どんな結羽でも欲しい」 幸せになれるよ…… 「俺が結羽を幸せにする」 蒼い瞳が、俺の胸をざわつかせる。 俺は求めてもいい? お前を……… 手を伸ばしても………いいのかな。 おいで、と囁く声がする。 甘い棘が胸を刺す。 「幸せになろうな」 いつの間にか、音もなく優しく降る雨に外の景色は変わっていた。 頷いて伸ばした手 ブルルルッ ポケットの中で鳴動が震えた。 スマホのバイブ 着信は……… 「出るな」 音のない雨を遮る声が響いた。 「出ないでくれ」 「あっ」 逞しい腕が俺を包む。抱きしめる。 きつく、強く、熱く。 逃がさない。逃げられない。 捕らえられる。 囚われる。 「俺を選ぶんだよ、結羽」 ポケットの中で、着信を知らせるバイブが鳴動し続けている。 腕を振りほどく隙はあるのに、体が動かない。 これがお前を選ぶ、という事なのか。

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