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第13話
それから、どうやって家まで帰ったのか、道中何か喋ったのか、全く覚えていない。
気がついたら健太郎が後ろ手でバタンと玄関のドアを閉め、靴すらまともに脱がないまま上がり框で唇を絡めていた。
呼吸も整わず、春一が苦しそうに一度顔を離そうとすると、そんな間もとらせてくれないくらいに性急に唇を求められる。
何度も顔の角度を変え、その度に顔にぶつかる春一の眼鏡が邪魔なようで、健太郎が奪うようにそれを外しその場に落とすと、カチャンと乾いた音がした。
あ、春一が一瞬そう言いたげな目をして眼鏡を探すよう視線を下げたが、健太郎の手に頤を摘まれぐっと顔を上げられた。
下唇を食まれ薄ら口を開くと、そこに健太郎がぬっと舌を滑り込ませ、歯列をなぞる。
「…んっ…んん…」
一瞬びくり、と硬直したが、柔らかく暖かい舌の感覚が心地よく、無意識のうちにくぐもった声を漏らした。
口腔を舌で撫で回している健太郎の舌をたどたどしく自分のそれで追うと、口づけは一層激しくなり、春一の短い髪の中に手を入れ掻き回してくる。
自らの手をそこに重ねた途端、後ろによろめいて倒れそうになり、それを健太郎は慌てて抱えた。
「…も、ダメ…くるし…」
息も絶え絶えに春一が訴えると、健太郎がきまり悪そうにした。
「あ、ごめ…」
お互い、気がつくと肩で息をしている。特に春一はひどい。あまりに必死すぎて二人で顔を見合わせると思わず小さな笑いが漏れた。
「酸欠で…、死ぬかと、思った…」
ハァハァと荒い息混じりに言葉を紡ぐと健太郎が軽く首を傾げた。
「…息、してんの?」
しばし考えたあと、ぼそり
「………わかんない…」
と呟いた。
春一の返答に、健太郎がふっと微笑む。
そう、息をしていたかどうかもわからないくらい、必死で貪っていた。
目の前の、美しい男の唇を。
そう思うと急激に羞恥心がこみ上げてきて、顔を覆ってがばっとしゃがみこんだ。
健太郎は足をぶらぶらさせながら行儀悪く履いたままになっていた靴を振り落とす。
そんな姿を行儀が悪いと咎める者は、今ここにはいない。
自分の靴を放ると、健太郎もしゃがみ込んで、片方だけ足に残っていた春一のスリッポンを脱がせる。
顔を覆う手をどけて、肩を掴み再び口づけを交わすと勢いが付いて春一は「わっ」と言う間もなくその場に倒された。
背骨に板張りの床がごりごりと当たり、何度か床をタップする。
「痛い!背中痛いって!」
「あ、悪ぃ」
春一がストップをかけると、じゃあ、とばかりにひょいと横抱きで持ち上げられてしまった。
「うぉわっ!」
抗議する間もなく、あっという間に健太郎の部屋のシングルベッドの上に降ろされた。
ふとこれまでの生活を振り返ってみても、しょっちゅうリビングにいたせいか、健太郎の部屋はあまり見た事も入ったこともなかった。
その中に自分がいるということが不思議でたまらなく、ベッドにぺたりと座った状態で無遠慮に部屋を見回す。
健太郎の部屋、というよりは寝室、と言った方が正しいのかもしれない。それ故か部屋は間接照明になっていて、淡いオレンジの灯りがぼんやりとしていた。
元々春一が転がり込むまでこのマンションに一人で住んでいたのだ。テレビやソファーはリビングにある。
ベッドの横に一つ引き出しの付いたベッドサイドテーブルとその上にナイトライト、部屋に備え付けられているクローゼットと姿見、本やら細々したものが少々載ったシェルフが置かれている程度のシンプルな部屋だった。
しっかりと片付いている部屋は、さすが健太郎と言ったところだな、と春一は思った。
「何か面白いものでも?」
あからさまにキョロキョロしていたのか、健太郎にそう声をかけられハッとする。
電球色の光に照らされた健太郎が四つん這いで迫ってきていた。
「…きれいにしてるよね」
ちゅ、と唇と唇が触れ、甘い音がする。
「ハルがいつ夜這いに来ても大丈夫なようにね」
「何言ってるんだか…」
思わず後ずさると、獲物を追いつめる肉食動物のように健太郎がじりじりと寄ってきた。
勝敗は見えていて、すぐに背中が壁にぶつかり、逃げ場がなくなる。
「…とりあえず、オレのジャケット返して?」
言うが早いか上着に手がかかり、器用に剥ぎ取られ、ベッドの下に放り投げられた。
そのついでと言わんばかりにパーカーのジッパーを下ろされ、ジャケットと同じ運命を辿る。
抗議しようとすると、すぐに唇を塞がれた。
「…ふっ…んっ」
舌で口蓋を愛撫され、力が抜ける。
口づけを交わす度、愛しい気持ちが行き交うようだ。
まさか健太郎こんなことをしているという少しの羞恥心と、大切な人に愛してもらえる喜びとで体中が熱くなった。
くたりとベッドに倒れ、唇が離れたかと思うと、今度は耳朶を甘噛みされる。
「あっ…んっ…」
思わず上がった自分の声が恥ずかしくて身を捩ろうとするが、がっちりと体を抱き込まれていて逃げる事などできなかった。
「や…、…ぁ…ちょ…、あっ」
その様子を面白がっているかのように、耳朶から耳輪から舐め回されて耳元でぴちゃぴちゃと音がして、体の芯が熱くなっていく。その度に出したくもない声が漏れた。
そしてあろうことか、カットソーの裾から脇腹を撫でるように大きな手が入ってきて、服が捲し上げられた。
流れに従うように腕をあげると、そのまま脱がされてしまう。
たかが上半身が脱がされただけなのに、こんなに心許ないことはない。
手で体を隠したい気分になったが、それはそれで女々しい気がするし、顔を逸らすことくらいしかできずにいると、耳を撫で回していた舌が、ツーっと首へ鎖骨へと下がって行く。勿論ここまで来て、どういうことかわからないほど鈍感ではなかったが、あまりに展開が急すぎて不安と焦りで思わず制止の声を上げてしまう。
「…あっ、ね、待って!待って!!」
「ん?」
あまりの必死さにか、さすがの健太郎も一瞬動きを止め、春一に覆い被さるように頭の両脇に手を置いた状態で見下ろしてきた。
「あ…あの…さ…」
「何?」
健太郎の刺すような視線に、春一は思わずごくりと唾を飲み込んだ。言うべきか言わぬべきか迷っていることがある。ばくばくと痛いくらい強く鳴る鼓動が、より一層緊張を高める。
どうしよう、戸惑いながら状況を打開できる言葉を探す。
「あ、……シャワー、シャワー浴びたい!」
「却下」
せめてシャワーでも浴びて少し落ち着きたいと思ったが、春一の申し出はすげなく断られてしまった。
「いつもオレが言っても朝にするくせに」
「……」
確かにその通りの正論を言われるとぐうの音も出ない。普段の生活態度を反省していると、健太郎の指が春一の前髪を優しく撫でるようにかき分けた。
「…イヤ?」
「え?」
もしもここで春一が本気で嫌がって止めてくれと言えば、きっと健太郎はこれ以上のことはしないだろう。でも、それは自分の望むことなのか。
春一は自分でも上手く仕訳けることのできないこことろからだに、この局面で向き合いながら、答えを探ろうとする。
「イヤ……じゃ、ない…」
「ハル…」
「…けど…」
思わず腕で顔を隠す。
「………初めてで…」
「…オレも男は初めてだけど、優しくするから…」
健太郎の手が頬に触れてきて、愛おしそうに撫でてくる。
その手がいつもより熱を帯びていて暖かい。
「…や…、ってか………」
思わずしどろもどろになってしまう春一だったが、意を決して言葉を紡ぐ。
「……その…こういう…セックスが…女性も、男性も…だから、あの…あんまり…ちゃんとできるか…」
顔がカーっと熱くなっていくのがわかる。コンプレックス、というと大袈裟かもしれないが、こういうことに関する経験がなさすぎて一切自信がない。知識としてないわけではないが、実体験は皆無なのだ。これまでこんな告白する必要は当然なかったので伝えたことなどなかったが、この場では伝えておかないと何か期待されてもきっと応えられないだろうし、そんなことを考え決死の思いで口を開いたのだが、その先は恥ずかしすぎて言葉にならない。
「…でも、健太郎のこと、好きだから…イヤ、じゃない…」
健太郎の様子が気になりそっと腕を下げると、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに顔を緩めて春一を抱きしめた。
あんなにふにゃっとした健太郎の顔を見たのは初めてだった。
「嬉しすぎる…」
「えっ?!」
「ハルは難しいこと何も考えなくていいから…」
唇と唇が触れ、顔を右へ左へと動かしながら、お互いを貪ってしまう。
何度も繰り返された口づけだけれど、何度重ねても心地よさが薄れることはない。
健太郎の顔が離れた瞬間、もっと欲しくて、寂しくて、思わず「あ」と小さく呟く。
「ただ、気持ちよくなってればいいから…ね?」
先ほどまで愛撫を施されていた耳に、甘く心地よく低い声で蠱惑的な言葉が響き、もうそれだけで頭がクラクラしてくる。
春一の上に跨がっていた健太郎が、自身の上着を脱ぎ捨てると、引き締まり、均整のとれたしなやか肉体が現れた。
服の上からだと、すらっと線が細く思われがちな健太郎だったが、その実しっかりとした筋肉を纏っていることを春一も知らないわけではなかった。
そう、初めて見たわけじゃない。
度々、撮影現場で見たことがある。
商品として、カメラに収まっていたその体の、刷り上がりのチェックをしたこともある。
でも、こんなにも生命力に満ちた瑞々しい身体だと感じたことはなかった。
思わず見事な腹筋の割れ目をなぞる。触れればそこは暖かい。
その春一の手に自らの手を重ねてふっと笑っている。
「なに?」
「ん…綺麗だなぁって…ぼくは、ほら、筋肉あんまりつかないから…」
そう零すと、肋の浮いた春一の両脇腹を健太郎が撫で上げる。
くすぐったくて肩を竦めたが、その手が胸を弄り、指が乳首に当たると甘い刺激が駆け抜けた。
「あっ…」
びくりとしたその動きを見逃されることはなく、人差し指でこりこりと捏ねられると、じんとした痺れがさざ波のように起こり下半身が熱くなる。
「オレは白くて細いハルが好きだよ」
「やっ…あっ」
堪えきれず恥ずかしい声が漏れて耳を塞ぎたくなるのに、愛撫は止む気配がない。
「乳首もピンクで可愛いし」
しっかりと形の浮かんだ乳首をキュと摘むと、硬く尖らせた舌で右側を舐められた。
ざわざわと腰の当たりが疼き、熱が両足の間でもたげ始めていることを自覚する。太腿をもじもじと閉じながら、いやいやをするように頭を横に振った。
「ひゃぁ…んっ、…」
「感じる?」
こんなところで感じている自分が恥ずかしくて、「ん」と小さく頷くしかできないのに、健太郎はどこか楽しそうだ。
ぐりぐりと指先で弄ばれているうちに、朧げだった乳首がピンと勃ち上がった。
「反対側もしてほしい?」
「なっ…」
何を言わせるつもりなのかと思うと羞恥で顔が赤くなる。
その様子を見て、健太郎は右側だけに執拗に刺激を与えてきた。理性が溶けてただただ快楽を享受するだけの身体になっていく。
「あっ…あっ、はぁ…んっ」
背を弓ぞりさせるよう捩ると、肩をベッドに埋められた。
もう、触れてもいない左側がじんじんと疼き、次第に欲しくてたまらなくなる。
「…や、して…反対も…」
健太郎が目尻に触れてきてわかった。自分はうっすらと目に涙を浮かべて愛撫を懇願している。
春一が強請ると、何も言わず反対の乳首へと舌を這わせる。
そして閉じていた太腿の間に右手を差し込んできた。
パンツの上からでも、春一のそこが既に熱を持って硬くなっていることははっきりとわかるだろう。
布越しから撫で回されるまどろっこしさに、思わず腰が揺れる。
健太郎は身を起こすと春一の足を開き、パンツのボタンを外して、ジッパーを下げた。
下着は春一の先走りで濡れて、恥ずかしい染みができていた。
「もう、こんなになってる」
下着ごとそこを握られ、軽く扱かれる。
「あっ…やぁ…」
「もっと気持ちよくなりたい?」
それは悪魔の囁きのようにも聞こえる。
これだけで、こんなに乱れるほど快感なのだ。
もし熱の塊に直接触れてくれたら、そう思うと堪らなかった。
「あっ、んっ、…して…」
ふ、と悪魔が微笑んだ気がした。
下着を下ろされると、焦らすように下生えを撫でられ、ごくり、と喉を鳴らした。
程なくして、ペニスがその手に包まれる。
蜜のぬめりを味わうように、親指で鈴口を撫でられると、くちゅくちゅと卑猥な音がした。その液体は春一の意志とは無関係に溢れ出す。
「…う…ぁ…あ…」
自分でしたことならあるが、それとは比べ物にならない快楽に身も心も蕩けてゆく。
達するには足りないくらいの加減でやんわりと扱かれているうちに、じくじくとした疼きが熱の中心から腰へと広がってゆく。
「あぁ…んっぅ…」
どうしようもなく、ただ嬌声が漏れ、与えられる快楽に身を任せていたときだった。
健太郎の頭が下がり、だらだらとはしたなく透明な蜜を垂らすそこが、気がついたときには手の中から彼の口の中に収まっていた。
「…や、あっ!あっ、」
突然の行為に動揺を隠せず腰が退けそうになったものの、ぐっと押さえられそのまま口淫が続けられた。
亀頭に付けた唇を開き、飲み込まれる。
ペニスの形を舌で確認するように舐め回され、ゆっくり口で扱かれるという甘い刺激に、下半身の熱が今にも爆発しそうだった。
堪えようと健太郎の髪の毛の間に指をいれ、掻き回す。
「やっ、だめ!も、出ちゃうからっ」
しかし、制止の声をかけると、尚一層口の扱きが強くなった。
そして、膨らみを揉みしだかれると一瞬頭の中が真っ白になり、つま先まで足がピンと伸びたあと、びくびく、と軽く痙攣する。
「ふぁ、あああっ…!」
気がついたときには健太郎の口の中で達していた。
荒い息をしながら健太郎を見ると、その喉仏が上下していて、混乱する。
ごめん、と謝ろうとしたところで深く口づけられた。
舌で粘膜をなぞられる度、何とも言えない青臭い味がする。これはもしかしなくても自分の精液の味だろう。
唇が離れると、つーと白い液体が糸を引く。考えられないほど淫靡な状況だった。
健太郎が、顎へと垂れるている白い液体を自身の手の甲で拭うと、余裕のない顔を向ける。
「ハル、イくとき、すげぇ興奮した…」
「え…」
健太郎がカチャカチャとベルトを外し下着ごとパンツを下ろし、前をくつろげる。
精を吐き出し、徐々に冷静になってきている春一は、現れたものを見てぎょっとした。
健太郎のことをよく見てきた春一もさすがにこれまでそんなところまで凝視したことはなかったし、況してや昂った他人のモノなど生で見るのは初めてだ。
怒張し天を仰いでいる健太郎のそれは、自分のものとは比べ物にならない威圧感だった。
ーーあれを、挿れる…の…?
経験はないが、うっすらと知っている。男同士のときは受け入れる側はアナルを使うということ。
冷静に考えてみるとおかしな話だが、押し倒されたとき、なぜかの春一は、なんとかなるかな、という気でいた。場の雰囲気に流されたというところが多分にあろうが、健太郎に抱きしめられたりキスされたりするのは嬉しかったし、心地よかった。だから、あまり深く考えていなかった。しかし現実を目の当たりにし、己の暢気さと想像力の乏しさを恨んだ。
無理だ。あんなの入るわけがない。
サッと血の気が引いた。
そもそも、あそこは人間の器官として挿れる場所ではないのだ。それが更にあんな立派すぎるモノでは万が一にも無理だ。
「け、健太郎?!ちょ、たんま!」
「あ?」
春一の声に健太郎が方眉をぴくりと上げた。
はっとして春一はこうも思う。
ーーああ、でもそうだよね、ぼくだけあんな…あんな気持ちよくさせてもらっておいて今更無理は無いよね。あ?え?でもでも、口でしてもらったわけだから、ぼくも口でしてあげればよくない?上手くできるかわかんないけど…
そんな事を考えているうちに健太郎が引き出しから何かを取り出していた。
それから背中に枕を入れられ、両足を割られ膝を折られる。
「やっ…!」
秘所が丸見えになるような恥ずかしい格好に春一が足を閉じようとしても、ぐっと押さえられてそれが叶うことはなかった。
「ハル…」
「け、けんたろ…?」
呼びかけに顎をぐっと引き恐る恐る健太郎の方を見ると、手に何やら液体を垂らしていた。
「難しいこと考えなくていいって、言ったろ?」
「ひっ…!」
双丘を揉みしだかれたかと思うと窄まりにヌルリ、という感覚があり、反射的に腰を弓なりに反らせた。
「力抜いて…」
そう言いながら周囲から馴らすように指が動いている。
「む、無理だよ!そんなっ…うっ…」
ゆっくりだが確実に健太郎の指がナカに入ってきた。
さほど痛くはないが違和感が半端ない。たかだか指1本でこんなにも混乱しているというのに、健太郎はこれ以上何をするつもりなのか、わかっていてもそう思ってしまう。
指が内壁を探索するように掻き回すたび、くちゅくちゅと湿った音がする。
健太郎が指をくっと折ったり伸ばしたりしていると、あるところに触れ、瞬間的に背がたわみ声が出た。
「…ひゃ…ん!」
「…ここ…?」
「あっ…や、…やだ…そこ、ヘン…」
そこを擦られる度、なんとも言えないずぐっとした刺激が腹に響く。
「ん、いいんだ?」
ベッドに頭を埋めるようにしながら横に首を振ったものの、慣れない刺激が次第に甘い快感に変わってゆくのがわかる。
反対の手で胸の上の赤く勃ちあがっているところを捏ねられると、そこからの快感と下からの快感が電撃のように入り交じる。
「はぁ…んっ…あっ、あ」
気がつくと中の指が2本、3本と増えている。
「ハルの中、トロトロになってきた…」
「あっ…や、なんっ…で…」
次第に健太郎がその場所から少し離したところに愛撫を施し始めると、物足りなくなって自ら腰を揺らしてはそこを探る。
ついさっきまで違和感しかなかったというのに、どんどん快楽に貪欲になっていく。
「はぁ…ぁぅ…あ…いい…」
先ほど一度達したというのに、春一の欲望はまた熱を持ち始めている。
透明な蜜がダラダラと、窄まりへ流れ落ちた。
自分の身体が作り替えられていくようで、怖くて、でもそれ以上に気持ちよくてわけがわからない。
前にも刺激がほしくて、自分の手を伸ばそうとしたときだった。
後ろからずるっと一気に指が抜かれる。
「あんっ…」
刺激を失って物足りなくなっていたのも束の間。
意識の向こうでペリペリ、という音がしたかと思うと、さっきまで解されていたそこに、これまで味わったことのない熱と圧迫感を感じ、春一は息を飲んだ。
「…ひっ…!」
「挿れるよ…?」
その言葉より先に、健太郎のペニスを春一の窄まりに宛てがっていた。
これまで快楽で蕩けていたというのに、一瞬にして痛みに変わり春一は顔を引きつらせた。
「っ…たい…!」
苦悶の声を漏らすと額にキスを落とされた。
「…っ、ハル、力…抜いて…」
そんなことを言われても、今にもそこはミシミシと軋みをあげそうなくらいになっている。
さっき一度勃ち上がり始めた春一のそれも痛みによって完全に萎えてしまっている。
健太郎も春一に気を遣いながら侵入を進めているようだったが、如何せん痛すぎて、行くも地獄帰るも地獄、そんな状況だった。
気を紛らわすように、あやすように健太郎が幾度となくキスをする。
「ゆっくり呼吸して」
「…うっ…ん…っ」
言われた通り、浅くなっていた呼吸を落ち着けて、春一は震える手を伸ばした。
「けん、たろ…ぎゅって…して」
「ハル…っ…」
切ない顔を向けると、春一がねだった通り上半身を寄せ抱きしめてくる。
春一はたまらず健太郎に抱きつき、その背中にぐっとしがみついた。
「…あっ、…ああっ…」
一番太いところを飲み込むと、ズン、ズン、と体内に熱い楔が打ち込まれるように徐々に健太郎が中に入ってきて、ナカの形がぴったりと健太郎のそれに絡み付いては押し拡げられ、とうとう根元まで飲み込んだ。
「全部、入った…」
「ん…」
「あったかい…」
健太郎がぽつりとそう言うと、目が合った。そしてその目が柔らかく細められ、じんわりと喜びがこみ上げてくる。
辛かった、でも、大好きな人を受け入れられたという充足感で、胸がいっぱいだった。
「…動くよ」
少し掠れた、甘く切ない声。
幾度か首を縦に振ると、程なくしてゆったりとした律動が始まる。
「あっ、あっ…!」
感じるところを擦られる度に声を上げた。
痛くないわけじゃないが、それ以上に例えようもない快感があって、身も心もぐずぐずになっていく。
気がつくと一度萎えた春一の方も完全に昂り、健太郎の腹筋と擦り合わさるだけで愉悦が蕩け出した。
「や、…あ…っ、ああっ、んっ…」
一度大きく抜くように引いて、また深く突き刺す。そんな動きをされると、目の前に星がチカチカして、獣のように一層大きな声が出てしまう。
次第に激しさを増す快楽に、身を捩らせ春一は涙した。
「やあっ、も、イく!だめ、も、むりだからぁ」
ひっ、と浅い息で嘆願すると、落ち着かせるように啄むようなキスが与えられた。
「ナカ、すごいうねってる…」
ダメだと言っているのに、健太郎の動きは止まる様子など微塵もない。
「ぅ…やぁ…あっ、おっきく、ぅ…」
それどころか、熱を更に昂らせ抽挿が速くなった。
「…ん、たまんない…そんな煽られると…」
健太郎の方も限界が近いらしく、パンパン、という音を立てながら動きが激しくなってゆく。
「…あっ、いいっ、」
初めてなのに、本能は知っていた。
自分をこんなにも激しく求めてくれる彼に、こころもからだも悦んでいる。
そして何より自分自身、彼を欲している。
「ダメ、やぁ…あんっ、ああっ…!」
春一は耐えきれず、びゅ、と白い液を飛ばすと、自身の腹を濡らした。
そして自分のコントロールできないところで健太郎を追いつめる。
「っ、…オレも、…」
程なくして、春一のナカでどくどく、と熱がうねる感覚がある。
「…ハル…」
ぎゅっと抱きしめてくる健太郎の体を、力の入らない腕で春一も抱き返した。
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