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知られざる真実5

「神坂さん、長山さんという方から外線入ってます」 涼が社内電話を取ると受付からそう言われた。 「すいません。電話には出られないと伝えて下さい」 個人的な連絡に涼が応えないと、糺は会社に電話をしてくるようになった。 涼からの別れの連絡は手紙一枚。糺が納得出来ないのは当然だろうと思う。そして、そこまで自分を求めてくれるその手に縋り付きたい。抱きしめられたい。 これから先、糺以外の誰かをあんなにも愛せない。 そもそも糺でなくとも、神坂武範が自分に執着している間に自由な恋愛などあり得ない。 数日後、涼が会社の自動扉を出た瞬間にバッと腕を掴まれた。 「糺…」 自分の腕を掴むスーツ姿の長山糺が居た。 泣きそうになる。何かを言おうと思うのに、声が震えそうで言えない。 「そんなに、そんなに迷惑か?そんなに俺が嫌いになったのか!?電話にも出ないで、あんな手紙一つで終わらせる程…」 糺の言葉が途中で詰まる。 涼はただ黙っていた。言葉を発したら、別れたくないと叫んでしまう。 「どうしても、どうしても無理なのか?俺は本気でお前との人生を考えてた。あんな手紙一枚じゃなく、お前の言葉で返事が欲しい!ほんとうに無理なのか!?」 糺!何もかも話して、今すぐ糺の胸に飛び込んでしまいたい、そう涼が思った時、二人が立つ歩道の真横の路肩に車が停まった。 中から一眼レフのカメラが二人に向けられている。 武範が雇っている探偵社という事は明白だった。 本来探偵は、尾行相手に悟られないようにするもの。しかし、涼が武範から糺と付き合っている証拠写真を見せられた以降、探偵はわざと涼に尾行しているとわかるように現れる。 毎日ではない。週に何回か、涼が歩いてる後ろに、入った喫茶店に、取引先の会社のロビーに、明らかに探偵だと分かるように現れる。 おそらくこの探偵社は、武範からそういう依頼をされているのだろう。隠れずに、涼が見られていると分かるように週に1から2回、素行調査する。 そうする事で、いつも武範が涼の動きを把握していると、涼に勝手な行動は無駄だと、植え付ける。 金を必要以上に持ってると、こんな馬鹿馬鹿しい事に使うのかと呆れるが、一方で効果はあると認めざるを得ない。 糺に害が及ぶ可能性を常に思い知らされる。 涼は泣いてしまわないように、ただそれだけに気をつけながら、短い言葉で糺に別れを告げた。 「俺の気持ちは手紙の通り。もう、お前とは会わない」 なんとか言葉を紡ぎ、後は駆け出した。どこをどう走っているのか、そんな事も考えられなかった。ただもう、糺のそばから去り、武範が糺に何か良くないことをしないように、糺と話している写真など撮られないように、ひたすら走った。流れる涙を拭う事もなく、ただ走った。

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