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重なる想い3

翔也が出て行った後、涼は糺に焼いてもらったDVD-Rをパソコンから取り出した。 会社の前まで糺が逢いに来てくれたあの日。涼が面と向かって拒絶したあの日から、糺からの連絡は途絶え1年以上過ぎた。 もう、糺との繋がりはこのDVD-Rの薄いディスク1枚だけ。翔也にいくら頼まれても、これは誰かに見せるものではないのだ。涼にとっては生きている理由そのもの。 武範の涼への執着は続いている。 『初めてあった時、理想が現れたと思ったよ』 『ほんとうに可愛い。愛してる』 そう囁きながら、嬲り続ける。 涼が苦しく涙を流す姿を、満足げに見つめる。 涼に近づく他者を排除し、離さないと言い切る。 涼の苦痛や悲しみを、武範は気に留めない。 武範の加虐嗜好も苦痛でしかない。義理とはいえ親子で関係を持つことはモラルを逸脱している。 ただそれらとは別に、愛してるといくら言われても気持ちが揺らがないのは、武範が涼に向けるものは愛ではないから。 涼にとっては、糺が仕事を続け、無事に暮らすことが一番の願い。 愛しているから、糺が傷つくことは阻止したい。 武範はおそらく自立した考えを持つ女性だったのだろう翔也の母を体良く追い出した。代わりに何も疑問に思わず自分を無邪気に慕う妻を手に入れた。 跡取りとなる血の繋がった息子はしっかり手元に残し、そして欲望を体現出来る義理の息子も手に入れた。 武範は自分のために自分が欲しいものを手に入れる。 その為の労力や費用は惜しまない。今までもこれからも。 それは愛ではないと涼は思う。 スマホの着信音が鳴る。 液晶画面を見てうんざりするが、何度もかけられる方が嫌なので手に取る。 「もしもし」 「涼、今週土曜日空けておくように。良いイタリアンを見つけた。中々予約の取れない店だったが頑張って秘書にとらせたよ」 「…何時?」 「店は19時。18時30分に迎えに行く」 「…わかった」 「イタリアンだが、ワインも良いのを取り揃えているらしい。楽しみだ」 「酒飲むならホテルは一般?」 「そうそう、Sチュリーのロイヤルスイートを押さえてある」 酒を飲むと移動にはタクシーを使うので、食後はいわゆるラブホは使わず一般のホテルに行く。 そこでも武範は鞭を振るうスペースを確保するため、必ず広い最高級の部屋に泊まる。 ただ武範は拘束や吊りが出来るラブホのSMルームも好む。 そういった部屋を使う時は酒を飲まず、家族が所有していることを知らない国産車を自分で運転して移動する。 ラブホに行くためだけに、わざわざ家から離れた駐車場を借りて、目立たない国産車を所有しているのだ。 「馬鹿馬鹿しい金の使い方…どうでもいいけど」 涼は自分の手首を見た。 一般ホテルでも、縄による縛りは必ずされる。 「そろそろ長袖でもおかしくない季節だよな…」 中々予約の取れないイタリアンを食べ、最高級ワインを飲み、ロイヤルスイートの部屋で縛られて鞭打たれて乱暴に抱かれる。 もう深く考えることも疲れ果てた。武範の愛玩人形に徹し、ただその時をやり過ごせばいい。

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