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疑惑
冬休み、涼は友達からカラオケに誘われた。
「えっ?翔也も晩御飯いらないの?」
母の由美が残念そうな声を出す。
「うん、ファミレスからのカラオケ流れだから御飯は要らない」
「えー、真紀さんも今日は休み取ってるし、1人なんて寂しい」
「1人って、父さんと兄さんは?」
「お父さんも涼も仕事で」
「また?二人はよく、出張とか残業とかが被るよね」
「うーん、そういえばそうかも。全然別の仕事なのにね」
翔也は待ち合わせのファミレスに行くため自転車を走らせながら考える。
そう、全然別の仕事なのにだいたい月に一回くらい、二人揃って不在の日がある。
一緒に出掛けて…?いやいや、あり得ない。
翔也は自分の疑問を自分で即座に打ち消す。
相変わらず必要最低限の会話しかしない、いかにも義理親子という雰囲気の二人。わざわざ外で会う理由がない。
友達の家の近くのファミレスは、駅にすれば二つ程先。そこに近づく頃、武範が歩道に立っているのを見かけた。
父さん?仕事ってこの辺で?
その歩道の前は、地下鉄の駅の出入り口が目の前にある。翔也がそのまま自転車を走らせていると、その地下鉄出入り口から涼が出てきた。
武範が軽く手を上げ合図したのが確認出来る。
翔也はびっくりして自転車を止める。
驚いて見ていると、路肩パーキングに停めていた車へ武範が運転席、涼が助手席に乗る。そして二人を乗せた車は翔也がいる方向へと走ってきて、そのまま通り過ぎていった。
えっ?
何だ今の?
絶対二人だったと翔也は確信する。多少離れていたが、それでも家族を見間違える距離ではない。
仕事で遅くなると言った二人。不動産業と出版社、それぞれの仕事に接点はないはず。
更に疑問だったのは乗っていた車。武範は何でも高級なものしか興味を示さない。家にある車はベンツ、BMW、アウディ。
涼に急な取材が入り、車を貸して欲しいと武範に頼んだことがあった。それがきっかけでアウディは涼に譲られ、涼はそれに乗っている。
武範の通勤は黒のクラウン、会社保管で毎朝運転手が秘書を乗せて迎えに来る。
翔也が知っている車はその4台。しかし今二人が乗った車は国産車で、どっちかというとハイクラスかな、という程度のもの。武範が好んで乗るとは思えない。
どうして二人で?家でもほとんど話さないのに。
それぞれ高級車を持っているのに、見たことのない国産車に乗り何処へ?
翔也はとうに見えなくなった車が去った方向を見ながら、ただ呆然としていた。
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